第14話 決勝はスパイゲーム

「まずは、東京事務所の生き残りから!

残虐王! 5等星・射手俊彦!」

「うるせえな!」

「ここにきて尚ギャンブル狂! 5等星・八木勇吾!」

「余計なお世話だ!」

「スワンと言うよりチキン! 5等星・白鳥朱羽しらとりしゅう!」

「えっ…全員その方向性のキャッチコピー…?」

「相方殺し! シュガーソルト・佐藤輝人!」

まあ、致し方ないだろう。

「コンビクラッシャー! 酢原瑛李!」

はー、自分のこと言われるより腹立つなあ。

「続いては、大阪事務所の生き残りです!

金銭感覚皆無! ねらいうち・弓座猛!

相方の不幸を願う男! ねらいうち・矢吹淳平!」

なんでこの2人はちょっとドヤ顔なんだよ。

「貢がせ男! サンサロ・左伴兼嗣ひだりともけんじ!」

「な、なんでそれを…」

「アンチ関東人! サンサロ・中道景太!」

「わ、悪いか? 実際お前が典型的なクズ関東人やないかい!」

「匿名掲示板で人気芸人ディスり! サンサロ・右田敦士!」

「今は関係ないやん!」

「それでは、最後のゲームを発表いたします。


ー『スパイゲーム』!」

おっ、ゲーム名だけで言えば今までで一番、それっぽいぞ…?

「これから皆さんに、それぞれ違う暗号が書かれた、

偽造防止のホログラム付きの紙を配ります。

この暗号は極力、他の方に見られないようにしてくださいね」

俺の紙には『エメラルド』と書いてあった。

他の9人のにも宝石名が書いてあるのだろうか。

誰もが自分の紙に素早く目を通し、

他人に見られないようにポケットにしまうという動作をした。

「よろしい。それでは、2枚目の紙を配ります」

こちらにはホログラムはついておらず、


射手俊彦 __

八木勇吾 __

白鳥朱羽 __

佐藤輝人 __

酢原瑛李 __

弓座猛 __

矢吹淳平 __

左伴兼嗣 __

中道景太 __

右田敦士 __


という、テストの回答用紙のような形態になっていた。

ああ、これはー

「大体おわかりですね?

これは、皆さんがスパイになって、制限時間24時間で、極力自分の暗号を見られないようにしながら、他の人の暗号をどうにか盗み見て解答欄に書き込むゲームです。

最も正解数が多い方が、映えあるトライアウト成功、再雇用となります。

但し、1つでも間違った回答を書いた方は、

嘘情報を流すスパイなんて問題外ということで、他にいくつ正解を書いていようと解雇となります」

「それって、全員自分のしか書いてないとか、

全員が10人分書けたとかの場合は全員再雇用になるの?」

酢原瑛李が尋ねた。

「かまいませんよ」

「なあんだ、だったら、他の人の盗み見るなんて一筋縄じゃいかないんだから、

全員このままで、自分のだけ書いて出すのが一番楽で安泰じゃん」

白鳥さんが安穏とした声で言った。

「さあて、そうはいきますかねえ…?

今の時点で、誰も他の人に盗み見られてなければそれもいいでしょうけどねえ…?」

そ、そう言われると…絶対の自信まではないな…

誰もがそう思ったのか、会場全体に不協和音が広がった。

そこで俺はすかさず言った。

「なら全員でいっせーのーでポケットからカード出して、全員で全問正解するのみだよ!

盗み見た人がいたとしたって、そっちの方がいいでしょ、

もっとたくさん盗み見た人がいるリスクを考えるとさ!」

「うーん…、それって一見公平に見えるけど、そうじゃないんだよな」

射手さんが首を傾げた。

「だって、カードを見てから全員分書き込むまでの速度って、人によって違うだろ。

早く書き終わった奴がとっととカードしまって、 全員分書けない奴が出てくる可能性があるんだよ」

「なんやお前、普通、誰もそんなん考えんわ。

お前が早く書けたらそれやろうと思っとる捻くれもんなだけやろ。

なのに、他の奴も当然やるように言うて、気分悪いわー」

中道さんが吐き捨てるように言った。

「これだから東京モンは嫌いやわ。

さっきのゲームかて、俺は関わりない白鳥でも合格させてやったのに、

お前と八木と酢原ときたら、仲ようない奴と見れば蹴落とそうとするばかり。

俺たちサンサロは絶対お前らなんかに暗号見せてやらん!」

「ちょ、ちょっと、中道さん…」

「ふん、こっちだって、お前らみたいな外道トリオ、ごめんだよ。

佐藤と酢原も嫌いだし、見せ合いなんてごめんだ!」

あちゃー…

嫌なキャッチフレーズ、効果覿面だなあ…

これで射手さんの思想がみんなに広がって、

見せ合えるのはせいぜい仲間内だけになっちゃったな…

「となると、今の状況は、仲間内では見せ合えるとして、

俺ら3、サンサロ3、ねらいうち2、佐藤酢原2か…」

八木さんが指を折って数え始めた。

「まあ、このままでも最大勢力だから生き残れる可能性高いんだけど、

多少盗み見られてるかもしれないリスクと、

サンサロはできれば落としたいってのを考えると、

もう1人分ぐらいは暗号が欲しいなあ…」

八木さんは酢原瑛李をチラリと見た。

そこからは阿吽の呼吸だった。

5等星の3人は酢原瑛李から暗号を奪おうと、一斉に飛びかかった。

彼女は咄嗟に窓際に逃げた。

「ちょっ、何すっー」

俺はすかさず助けに向かったが、一瞬遅かった。

「何よ! あんたたちなんかに勝たせるぐらいなら、こうしてやるっ!」

酢原瑛李はポケットから紙を取り出してクシャクシャにすると、

窓から草木が生い茂った庭園目掛けて、思いっきり投げつけた。

「ああーーーーっ!」

5等星の悲鳴を背に、彼女はハンカチで顔を押さえながら食堂を後にした。

彼らが次は俺を狙ってくるだろうと即座に感じた俺は、

すかさず彼女を追いかけ、同じく食堂を走り去った。

どうして…?

どうしてどのゲームにも、それ自体にはそこまでの攻撃性はないのに、

毎回毎回こんな…凄惨な潰し合いが始まるんだ。

どうして俺は…酢原瑛李ひとりすら護れなかったんだ。

この上なく恐い思いをさせてしまった、それだけではない。

暗号を投げ捨ててしまっては、もう彼女に勝ち目は…

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