第5話 突破口
俺たちはじっと考え込んだ。
「あっ、そうだ!
正解したらなんかプレゼントすることにしたら、皆さんやる気出してくれるんじゃないかな?」
「そうだなあ…やってみるか、何もしないで終わるよりは…」
何故か塩月の歯切れは悪かった。
貧乏芸人の哀しさかそんなに高いものは買えず、
正解者プレゼントは結局ポッキー1箱になった。
しかし、それでも惹きは絶大で、
みんな真剣に考えてくれるようになり、傷つけてこなくなった。
やはり人間、利益をもたらしてくれるかもしれない人が相手だと礼節を思い出すのだ。
ところが…
「えーっと…うーんと…どっかで見たことあるような…? ごめん、やっぱわからない!」
おいおい、さっきからこんな人ばっかじゃねえか。
そう、反応は良くなったが、みんな結局知らないものは答えられないくせにポッキー欲しさに無理に考え込むから、1人あたりに掛かる時間が長くなったのだ。
「ああ、ダメだなぁ…だから塩月、難色示してたんだね。
なんか他の妙案、ないかなあ…」
「あっ、わかった!
スマホ持ってるんだから拡散して、俺たちを知ってる人にここに来て貰えば?」
い、いや、スタッフついてんのにそんなズルして大丈夫なのかよ…
と思いきや、彼は全く反対する様子を見せず、無反応だった
ーあっ、そうか!
俺、勘違いしてたよ!
トライアウト・ゲームは体力と根性、そして『頭脳』試しのゲーム
ーこれぐらいの裏工作は許されるんだ!
目の前の霧が一気に晴れていったような気がした。
そこで俺達は、それぞれのツイッターに知ってる人募集の文面を載せた。
しかし、それでも誰も来なかった。
「はあ…これも所詮、ある程度ファン数も知名度もある奴のやり方かあ…」
「俺達どんだけ…くそっ、もうなりふり構ってらんねえよ、親族や友達に加勢頼もうぜ」
しかし、そこは関東人の俺たち、しかも平日昼間のこと。
同情の声はあっても、名古屋駅前に実際駆けつけられる者などなかった。
「これ…悔しいぐらい知名度のあるなしを正確に選り分けられるシステムだな…」
未だ正解者0人のまま、折り返しの6時間が経った頃、またもや着信があった。
『皆様ごきげんよう、死神代行の引地です。
6時間17分、壊し屋X』
「あーあー、今度はあの人らがクリアしたのかよう」
『ー辞退!』
「えっ?!」
俺と塩月の声が揃った。
『まったく、最後まで戦う体力と気力すらないとは、お話にもなりませんねえ』
若い引地はこう言うが、俺には彼らの気持ちがわからなくもなかった。
なんといっても、2月の気温の中を6時間歩いているのだ。
40代の壊し屋Xのお二人は、より冷えが体に重く、気力も折られたことだろう。
『それでは死神として、お二人の首を狩らせていただきましょう』
ザクリッ!
「うわー、嫌な効果音だなあ…この番組の演出家、趣味悪すぎ…」
「しかし…遂に本当に脱落者が出ちまったか…
さっきはライバル少ない方がいいって言ったけど、やっぱ実際そうなると…」
「明日は我が身って感じで背筋が凍るよね…」
「だよな…でも、俺たちは最後の最後まで戦い抜こうな。
気力体力に限界がきたら、休めばいいんだ」
「ーそうだな!」
こいつが相方で良かった!
なんでそんな簡単なことを忘れかけていたのだろう。
一人だと本当に視野狭窄になるもんだなあ。
というわけで、俺たちは鋭気を養うべく喫茶店かカフェを探し始めた。
「あーあ、いつも腐るほど目につくのに、どうして探し始めるとなかなか無いんだろ」
「そんなもんだよな…おっ、ここ良さげじゃね?」
塩月が指差した店の先には黒板が出ており、
そこにはモンブランが、チョークで丁寧にふんわりと描かれていた。
「あっ、ほんとだ、おいしそ…」
その光景が目に入るや否や、俺の頭に稲妻が走った。
「なあ塩月、このゲームってたしか、引地は…
あなたがたの名前を『言える人を』10人見つけたら合格、って言ったよね…?」
「? ああ、たぶんそうだけど、それが?」
「だったらさ、知られてなくても
…首から名前書いた黒板でも下げといて、それを言って貰えばいいんじゃね?」
「あはははははは、さすがにそんな屁理屈はダメだろ…」
塩月は最初は笑い飛ばそうとしたが、スタッフに制止する様子がないのを見ると、
みるみるうちに真顔になっていった。
「おい、マジか…いいのかよ…よし…」
俺たちは早速、100円ショップでマジックペンと
首から提げられるホワイトボードを買った。
ポッキープレゼントの併せ技がここで効いて、10人達成はすぐだった。
「よし、これで…」
塩月はまっすぐホテルに戻ろうとした。
「おいおい、あと6時間近くもあるんだから、
他の連中を探してこの方法を教えて、一人でも多く助けてやろうぜ」
「何言ってんだお前」
塩月は嘲るような笑みを浮かべた。
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