第6話 見知らぬ女性

 部屋に入ると、すずなはリュックの中身を机の上に置いた。

椅子に腰を下ろし、改めて他の封筒やハガキを一つひとつ確認していく。

その大半は他愛のないものだった。DMや音楽イベントの案内……等。


 その中で、すずなは写真付きの年賀ハガキに目がとまった。

「……これ、兄貴?」


 ハガキには、兄が見知らぬ女性と並んで写っていた。

場所は日本ではなさそうだ。背景にはスカーフを巻いている女性の姿が見える。建物も、空の色も、街の賑わいの様子も日本のそれとは全く違う。

 そしてそこには、すずなが見たことのないほどの無邪気な笑顔の兄がいた。


「兄貴、ちゃんと彼女いたんだ……」


 ハガキには、手書きでこう書かれていた。

『旅行楽しかったね。今年もいっぱい思い出作ろうね』

 すずなはその文字に、胸が締め付けられる思いがした。なぜなら彼女のこの願いは叶うことがなかったからだ。


 ふと、兄の胸元を見ると見覚えのあるものがあった。

例の目玉のネックレスだ。もしかしたらここで買ったものかも知れない。

 すずなはそう思いながらハガキの宛名面にも目を移す。

『藤崎あおば』


 その名前を見た瞬間、すずなはハッとした。

ペラペラと束をめくる。

「たしか、さっき……あった!」


 その封筒は、すずな宛のものと同じく、切手は貼られているのに消印がない。

宛名には──『あおばへ』


 思わず封を開けようとしたすずなだったが、思いとどまる。封筒を天井の灯りに透かしてみたりしたが、やはり中身は見えなかった。


 すずなは、この“あおば”という人物にこの封筒を届けるべきかと思い、改めて宛先の住所を確認した。


『麻海市 藤袴区』


 すずなは眉をひそめた。

麻海市──それは、別名「魔界」とも呼ばれる場所。

 巨大な繁華街があることもあり、治安の悪さで有名だった。

 女子高生がひとりで歩くには、あまりにもリスクが高い。学校でも、立ち入りは厳しく禁じられている。


 確かにあそこはライブハウスの数は多い。バンドマンだった兄が麻海に住んでいたのも、そのためだ。

 おばあちゃんの家は隣町にあるけれど──やっぱり、気軽に行ける場所じゃない。


 すずなは小さくため息をつき、手紙やハガキを輪ゴムで束ね直すと、それらを机の引き出しの奥へとしまい込んだ。

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