第12話「優斗君は、何かこだわりとかある?」
迎えた休日。
彩音とお出かけを楽しみにしていた優斗だったが、家を出る前にはその気持ちが薄らいで行った。
大人びた雰囲気を出しつつも、ちゃんと可愛らしさも両立するスカート姿の彩音の横に立つ優斗は、とてもダサかった。
服、というかファッションには今まで興味がなかったので、着ている服はいつも母親が買ってきた物。鏡に映る姿は中坊のようだ。
隣に立つ彩音の存在が、自分のダサさをより際立てている。その事実にため息が自然と漏れ出る。
「優斗君、もしかしてお姉ちゃんとお出かけ、嫌だったかな?」
そんな優斗の憂鬱を感じ取り、彩音が苦笑いを浮かべる。やっぱり私が一人で行こうかと言わんばかりに。
「いや、そういう意味じゃないんだ!」
慌てて、手を必死に振り言い訳をしようとして言葉に詰まらせる。
自分の格好がダサいのが恥ずかしい。一応優斗なりにおしゃれな服を選んだつもりなのだが、いや、おしゃれな服を選んだつもりだったから、余計に恥ずかしくて口に出せないのだ。
だが、隣で困った笑みを浮かべる少女相手に、下手な言い訳をしても傷つけるだけ。
「俺の格好さ、彩姉と比べてダサいから、これだと彩姉が嫌じゃないかなと思って」
「そ……」
そんな事ないよと言ってあげたい彩音だが、返答に困る。
おしゃれかダサいかで言えば、ダサい寄りの格好。彩音としては、逆に弟感が出てそれが良いまである。
だが、本人はそれを真剣に悩んでいる。だからここで中途半端な慰めをしても問題の解決にはならない。
「それじゃあ、今日は優斗君の服も買いに行こっか。お姉ちゃんが選んであげるから」
彩音の手伝いをするための買い物なのに、服を選んでもらっては結局彩音の負担になって本末転倒。
しかし、断ろうにも「弟に服買ってあげるの、お姉ちゃん夢だったんだ」などと口にして嬉しそうにされては断りづらい。
結局、彩音が喜ぶならと自分に言い訳をして、近場のスーパーに行く予定だったのを、少し足を運ぶがショッピングモールに行こうという事で話はまとまった。
休日のショッピングモールは、当然のように人でごった返しになっている。
カラフルな壁を背に、さまざまな店が立ち並ぶ。
おしゃれな店の店員や客だけでなく、道ゆく人々、なんなら自分より遥かに年上のおじいちゃんですら、自分よりもオシャレに見えて、自分の格好は笑われていないか不安になる優斗。
「優斗君は、何かこだわりとかある?」
「いや、特にないかなぁ」
「ほら、この色が良いなとか、きれいめで揃えてみたいなとか」
「あーごめん。きれいめとか言われても、さっぱりわからないや」
「そっか」
困ったように眉を下げた優斗に対し、彩音が顔を赤らめ、にっこりと笑顔を見せる。
(優斗君のその表情、すごく弟っぽくて良い)
ゾクゾクとした何かを感じ、それを振り払うように頭を振る。
そんな風に感じてしまうのも仕方がない。彼女にとって弟の服を選んであげるのは「お姉ちゃんになったらやってみたい事ランキング」の上位に入るイベント。
しかもファッション知識は皆無ときた。つまり完全にお姉ちゃんにお任せコーディネートが出来るのだ。もはや有頂天である。
「あ、それと当たり前だけどお金は自分で払うから」
この姉は時折、いやいつもと言って良いほど暴走する。
もしかしたら今日の買い物の分も「お姉ちゃんが払ってあげるね」などと言いかねない。
「……えっ?」
優斗の予想通り、彩音は支払いもするつもり満々であった。
目のハイライトを消しながら「なんで?」と首を傾げる姿に、マジかよと引き攣りそうになる頬を必死に止める。
「いや、俺の家の事と俺の服の事だから、俺が払うのは当然だろ?」
やはりというか、彩音が「なんで、お姉ちゃんが払うよ?」と言っているが、それでも首を縦に振るわけにはいかない。それは色々と超えてはいけないライン。
一応親から毎月銀行にいくらか仕送りをしてもらっているから、お金に余裕はある。
言い訳のように「おじさんとおばさんから、優斗君のためのお金貰ってるから大丈夫だよ?」と彩音はいうが、それは家事をやってくれるお礼として親が彼女に渡しているお金だという事を優斗は知っている。
三十分ほど問答し、最終的に優斗が支払う事を了承した彩音だが、まだ納得がいかないのか、口を尖らせて「お姉ちゃんが払うのに」と不満そうに呟いていた。
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