第9話「アンちゃんのせいなんだからね!」

「おはよう優斗君」


「アンちゃんおはよう」


「おはよう」


 いつもの朝。

 まだどこか寝ぼけたような表情で、優斗は欠伸をしながらのそのそと歩く。

 彩音が手際よく朝食の準備を済ますと、優斗はイスに腰かけ、朝食を取る。

 優斗の隣に座り、彩音は優斗の髪を手でとかし始める。どうやら優斗の寝癖が気になるようだ。 

 

「そんなの気にしなくて良いよ」


「ダーメ。ちゃんと直さないと。ほら、ネクタイも曲がってる」


 朝食を食べながらだというのに、器用にネクタイまで結び直すあたり、よく出来た姉である。

 別にそれくらい大丈夫だろと言いながらも、なすがままにされているのは信頼の証なのだろう。

 優斗の朝食が終わるのと、彩音がネクタイを結び直すのは同時だった。


 そんな仲睦まじい姉弟の姿を見せられ、遥が疑問に思う。


(あれ? アンちゃん、彩音ちゃんに対してめっちゃ甘えてね?)


 少し前までなら、彩音が構い過ぎると「もう良いから」と言って照れ隠しをして、構い過ぎてしまった彩音が苦笑いを浮かべていた。

 姉になりたがる彩音と、弟になりきれない優斗がどこか反発していたからだろう。

 それが今朝はどうだ。彩音の行動は、明らかに構い過ぎの範疇である。

 なのに優斗は口では「もう良いから」と言うが、完全に彩音を受け入れている。


 確かに以前、彩音が姉に憧れているから、出来ればそれに付き合ってあげて欲しいとは言った。

 それはこの関係が長く続かないと思っていたから。時が経つごとにお互い気恥ずかしくなり、自然に「姉」と「弟」の関係は消えていくだろう。

 だから、今だけは彩音に姉の立場を味あわせてあげようという、遥の姉心からだった。


 まさか、それが「姉」と「弟」の関係が進展するとは思いもよらなかった。

 おかしいかどうかで言えば、相当おかしいだろう。

 

(彩音ちゃんが満足してるんだから、まいっか)


 とはいえ、遥はそこに深く踏み込むつもりはない。

 だって彩音ちゃんが嬉しそうだから満足だもん。な感じなので。

 

 ただちょっと、ほんのちょっとだけ彩音が取られたようで悔しいので優斗にちょっかいをかける。

 せっかく彩音が直した寝癖を、「ウェーイ!」と言いながら手櫛シェイクでボサボサにしながら。

 優斗がお返しと言わんばかりに、遥のツインテールをほどき両手でわしゃわしゃして、登校前だと言うのに髪をボサボサにした2人。


「アンちゃんのせいなんだからね!」


「元はと言えば、お前から手を出して来たんだろ!」


 完全に小学生のケンカである。

 この後、我らがお姉ちゃん彩音から「めっ!」をされたのは言うまでもない。

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