第2話「はい。お姉ちゃん特製、栄養バランス満点の和風プレート!」

 佐藤姉妹が安藤家に来てから数日がたった。


 朝。

 時計の針は8時を回ったところで、リビングから漂う良い匂いに釣られるように、優斗がリビングに顔を出す。

 キッチンでエプロン姿の彩音が、少し楽しそうに鼻歌を歌いながら卵焼きを作る姿を見つけ、そんな姿にほっこりしながら。


「彩姉おはよう」


 軽く声をかけた優斗だが、ビクッと跳ねるように反応する彩音。

 

「あっ、優斗君、おはよう」


「ごめん、驚かせちゃったかな」


「ううん。大丈夫だよ。朝ごはんもうすぐ出来るから、テーブルに座って待っててね」


 鼻歌を歌っていた姿を見られたのが恥ずかしかったからか、彩音は頬を赤らめ、それでも努めて平静に朝の挨拶を返す。

 彩音に促され、まだもうちょっとだけ彩音の鼻歌が聞いていたかったな等と思いながら優斗はテーブルに腰かける。


 朝食を作る彩音を横目に、せめて皿を出すくらいは手伝いたい。

 だが以前それをやろうとして「お姉ちゃんがやるから、優斗君は座ってて」と言われ、それでもと食い下がってみたが、最終的には「めっ!」をされた。

 なので、それ以来彩音が何か手伝いを要求しない限りは言われるがままになっている。

 内心情けないと思いつつも、姉相手に無理を通せないのは分かっているので。


 数分後。

 彩音が鼻歌を歌いながら、テーブルに豪華な朝食を並べる。

 味噌汁、焼き魚、卵焼き、漬物。


「はい。お姉ちゃん特製、栄養バランス満点の和風プレート!」


「彩姉、毎日作ってくれて、悪いな」


「ふふ、優斗君の世話はお姉ちゃんの役目だから。遠慮しないで」


 皿に手を付け、食事を始める優斗。

 その対面に座り両肘をついて優斗の食事風景をニコニコと眺める彩音。

 そんな優雅な朝食の時間も、すぐに終わりを迎える。


「彩音ちゃん! ボクの分は!?」


 バタンと大きい音を上げながら玄関のドアを開け、バタバタと音を立ててパジャマ姿で乱入する遥。

 セットをしてないボサボサの髪を揺らしながら、テーブルに飛びつく。


「遥。お前、朝からうちに来るなよ! 自分の家で食え!」


「やだ~、彩音ちゃんのご飯、美味しいもん! ね、彩音ちゃん!」


 遥が彩音に抱きつくと、彩音は「もう、遥ちゃんったら」と苦笑いで答える。


「優斗君、遥ちゃんの分も作ったから、一緒に食べよ?」


 そんな風に困った笑顔で言われ、断れる優斗ではない。

 わざとらしいため息を上げながら「分かったよ」と優斗が答えると、遥は両手を上げながら「やったー!」と子供のようにはしゃぐ。

 キッチンでは彩音が追加の皿を出し、遥の朝食の準備を始める。


「アンちゃん、早く食べよう!」


「お前の分は今彩姉が準備中だ。人の皿の物を取るんじゃない! せめて素手で食べようとするな! 箸を使え箸を!」


 優斗と同じ朝食が盛り付けられた皿がテーブルの上に並ぶ。

 行儀よく手を合わせ「頂きます」をしてから、遥が料理に手を付ける。

 彼女の手に握られているのは客用の割りばしでなく、小さな花柄の入ったピンク色の可愛い箸。遥専用箸である。

 そして、洗い場には同じ模様で紫色の、彩音専用箸。

 他にも、食器棚には彩音や遥の名前の書かれた専用コップが置いてある。


 安藤家は彩音と遥にとっての第二のホームになっていた。

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