―――――[B] 籠り声
何はともあれ、妹は県外の中学校でいい感じらしい。それが知れただけでもよかった。
……別にスマホで近状報告けっこう来るけど。
おじいちゃんやおばあちゃんの家にもよく遊びに行ってると写真付きのメッセージもいっぱい来る。僕は、この家にいないといけないから、家と寮が近いのはホントに良かった。
――昔からそうだった。
強くて、年上である僕よりしっかりしている子。
お母さんとお父さんが亡くなる前からも、亡くなってからも、自分で考える力が次第に強く……自分の個性を存分に発揮している。
――この家にはいつしか誰もいなくなっていた。
今では、もうひとり。
気が付けばその部屋に足を運んでいた。
仏壇には遺影が横並びに並んでいる。ろうそくの火は点いていないけど、線香の先端はまだ少し熱を感じる。
理由は単純、起きてからすぐに線香を立てて手を合わせたからだ。
僕だってちゃんとしたい。手を抜きたくない。
もし雑にしたら自分の想いも雑になってしまう気がして……
――――――――
少し家族のことを考えたせいか、暇すぎて死にそうになったせいか、もしくはその両方か。
そんな僕に手を差し伸べたかのよう、まるでタイミングを計ったかのよう
『ピロン♪』
スマホの振動と通知が届いた。ロック画面から何の連絡か確かめる。
対して要望もしていないネットニュースか、ブサイクな顔したムカつくスタンプのお知らせか、『◯◯さんがライブ配信を開始しました』いや、だれ!? となる通知か。
でも通知をONにしているアプリはさほど多くない。
一体何やらと画面を見てみると――文字通り言葉を失った。
「っ!! う、嘘!?」
『新世界リマスター』略称『シンリマ』
スマホやパソコン、ゲームセンターでも数多く取り扱っているプレイの幅が広い僕が1番大好きな音ゲーだ。
上のから流れてくるノーツに合わせて、画面とは離れた4×4の四角形の専用コントローラーのボタンを叩くという、他とはかなりシステムの違った特殊な音ゲーで、
リズムテンポとビートを完璧に刻むことに特化したもの。
……正直、日の目はあまり浴びてない。
でも、でもでもでも!
シンリマは丁度今1周年記念という華を送るなか、取り扱っているプラットフォームが多いという魅力がある。
さっきやっていたようにPC版、簡易的なスマホ版、築浅だがアーケード版、色んなところから触れることが出来る。
そんな最高なシンリマ。
僕はスマホを赤子のように優しく抱き寄せ、はるか先の青空を見据える(全然室内)
結局何が言いたいのかというと――
「ありがとう……妹よ」
メッセージや通話ができるコミュニケーションアプリ
なんてことだ! こんなことありえない! ……そりゃ思わず海外小説の日本語訳みたいな言い回しにもなるよ。
わかりやすく説明すると、ゲームセンターにあるアーケード版シンリマを、このもらったQRコードをピッとするだけで何回か無料プレイできるということ。かなりのチケット枚数なので、それなりのお金もかかっただろうに……
ジーンと来たものが、涙に現れ、頬を伝う。
帰ってきたら美味しいご飯、作ってあげよっ。
そうとなれば早速出発だ!
いつものお気に入りのジャンパーを羽織って、肩掛けカバンに貴重品を入れていく。コンタクト用の目薬や財布、ハンドタオルにシンリマでは使わないけど一応軍手。
なぜかって? 軍手は音ゲーマーの標準装備だからだ。
お気に入りのスニーカーに足を突っ込む。靴紐を結び直しているとき、ふと思った。左足だけ結んで、そのまま手が止まる。
――久しぶりの外。
改めて実感すると、縄が締め付けるように身体が動かない。
いざ、ドアノブを手にするとずっしりした重たいものが僕の体を包んだ。
どんなきっかけでも外の空気を吸うことには未だ抵抗ある。実際それは、音ゲーや妹からのプレゼントだというので誤魔化していた部分だ。
でも、たかが近所のゲームセンターだ。
行きつけではあるし、そこまで距離もない。通行人なんて顔見知りは1人もいないだろう。今の時間帯も人通りは少ないはず。
(誰かに会いに行くわけじゃないから――大丈夫だよね)
「いってきまーす」
家には誰もいないことが分かっているのに、リビングを向いた。
もちろん返事が帰ってくることない。
誰からのアクションもない。
それでも癖というのか、馴染みというのか。
これでよかった。
……これで、いいんだ。
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