第13話 凱旋、キヨスの夜明け
オケハザマ宙域での歴史的な勝利から数日後、オダ・ノブナガ率いるクラン・ノブナガの艦隊は、母港である宇宙要塞キヨス・ベースへと帰還の途についていた。
かつて絶望的な戦力差を前に死地へと赴いた時とは異なり、艦隊の雰囲気は高揚感と達成感に満ち溢れていた。
それでも、ノブナガの表情は浮かれることなく、静かに前方の星図を見つめている。
彼の心には、勝利の喜びと共に、この勝利がもたらすであろう未来への重責が刻み込まれていた。
キヨス・ベースが視界に入ると、ノブナガはアツタ・フレームのメインスクリーンに映し出された光景に、わずかに目を見張った。
ベース周辺のドックや居住区画から、無数の小型艇やシャトルが飛び交い、クラン・ノブナガの旗が宇宙空間に誇らしげにはためいている。
そして、ベース内部へと続くアプローチ航路には、まるで勝利を祝う凱旋門のように、エネルギーフィールドによる光のアーチが幾重にも形作られていた。
「……ヒデヨシの差し金か、あるいは民が自発的にか。 どちらにせよ、派手な出迎えだ」
ノブナガは小さく呟いたが、その声にはまんざらでもない響きがあった。
アツタ・フレームがキヨス・ベースのメインドックに着艦すると、タラップの先には、この勝利を待ち望んでいた家臣たち、そして熱狂するオワリの民衆の姿があった。
ノブナガが姿を現すと、割れんばかりの歓声と拍手がドック内に響き渡った。
「ノブナガ様 !万歳 !」
「オワリの救世主だ !」
民衆の熱狂は、銀河の辺境で虐げられてきた彼らが、初めて掴んだ大きな希望の表れだった。
ノブナガは、その一人一人の顔を見渡し、静かに手を挙げて応えた。
数日後、キヨス・ベースの大ホールにて、正式な戦勝報告会と論功行賞の式典が執り行われた。
クラン・ノブナガの主要な家臣たちが一堂に会し、その中央には、凛とした佇まいのノブナガが座している。
彼はまず、このオケハザマの戦いの経緯と戦果を、冷静かつ簡潔に報告した。
イマガワ・ヨシモトの討ち取り、スルガ大艦隊の壊滅、その言葉の一つ一つが、家臣たちに改めて勝利の重みを実感させ、ホールは静かな興奮に包まれた。
報告を終えると、ノブナガは立ち上がり、深く頭を下げた。
「この勝利は、諸君らの勇気と奮戦の賜物である。 だが同時に、我々は多くの尊い命を失った。
この戦いで散っていった全ての将兵の魂に、心からの哀悼の意を表する。
彼らの犠牲を決して忘れず、その死を無駄にしないことを、ここに誓う」
その言葉には、偽りのない弔意が込められていた。 ホールはしばし厳粛な静寂に包まれ、誰もが戦死した仲間たちに思いを馳せた。
そして、論功行賞が始まった。
「シバタ・カツイエ !」
ノブナガの声が響く。歴戦の勇将カツイエが進み出て、恭しく頭を垂れた。
「そなたは、陽動部隊の指揮を執り、圧倒的な敵を前に一歩も引かず、見事に我が奇襲作戦成功への道を切り開いた。
その功、誠に大である。
オワリ星系内の未開拓宙域の統治権を与える。
今後もクラン・ノブナガの武の柱として、その剛勇を振るうべし」
「ははーっ ! このカツイエ、殿のためならば、いかなる強敵であろうとも打ち破ってご覧にいれまする !」
カツイエは感極まった様子で応えた。
次に呼ばれたのは、ハシバ・ヒデヨシだった。
「ヒデヨシ。 そなたの情報収集能力、電子戦における機転、そして何よりも、我が意を汲み、不可能を可能にするその知略。
全てがこの勝利に不可欠であった。 そなたには、クラン・ノブナガの情報戦略統括の任を与える。さらなる活躍を期待する」
「もったいのうございます !
このヒデヨシ、生涯を賭して殿にお仕えし、殿の描かれる銀河の未来図を実現させるため、粉骨砕身努力いたしまする !」
ヒデヨシは、その猿に似た顔を喜びで輝かせ、深々と頭を下げた。
続いて、ヨシモト討ち取りの直接の功労者であるモウリ・シンスケとハットリ・コヘイタらが呼ばれ、それぞれに分に応じた恩賞と称賛の言葉が与えられた。
彼らは、若き総帥からの評価に感激し、さらなる忠誠を誓った。
論功行賞は、家臣たちの士気をさらに高め、クラン・ノブナガの結束をより強固なものとした。
全ての儀式が終わり、ホールが再び静まり返ったとき、ノブナガはゆっくりと立ち上がり、集った全ての者たちを見渡した。その瞳には、未来への確固たる意志が宿っていた。
「聞け、我が同胞たちよ !」
ノブナガの声は、力強くホール全体に響き渡った。
「オケハザマでの勝利は、我らにとって大きな一歩であった。
だが、これは決して終着点ではない。むしろ、始まりに過ぎぬのだ !」
家臣も民衆も、固唾を飲んで彼の言葉に聞き入っている。
「我らクラン・ノブナガは、このオワリ星系を足掛かりとし、これより、新たな銀河の秩序を打ち立てるための戦いを始める!
旧き時代の惰弱な支配者たちを一掃し、力と才ある者が正当に評価される、真に自由で豊かな銀河を創り上げるのだ!」
ノブナガは、そこで一度言葉を切り、そして、彼の野望を象徴する言葉を高らかに宣言した。
「我がスローガンは、『銀河布武』!
このオワリから、武の力をもって、銀河に新たな秩序を布く!
道は険しく、敵は強大であろう。
だが、恐れることはない!
我らには、この勝利で証明された力と、未来を切り開く意志がある!」
その演説は、聞く者全ての魂を震わせた。絶望の淵から奇跡の勝利を掴んだ若き指導者の言葉は、圧倒的なカリスマ性を放ち、彼らを新たな夢へと誘う。
「我と共に来る者は、その全てを賭してついてこい!
新たなる伝説を、我らの手で創り上げるのだ!」
ノブナガの最後の言葉と共に、ホールは再び熱狂的な歓声に包まれた。
それは、オワリ星系という辺境の地から、今まさに銀河の歴史へと躍り出ようとする、新星ノブナガとその仲間たちの、力強い夜明けの鬨の声だった。
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