第4話 それもまたアリ!
三十二歳、魔法研究職。現在、休職中。
話してなかったが、この《擬態魔装〈メイクアップ・シェル〉》には、変身機能だけでなく、身体強化や防御の術式も組み込まれている。
研究者あがりの私が、ある程度まともな冒険者として動けているのは、その補助機能のおかげだ。
普段は魔力の消費を抑えるため、身体強化や防御の術式は切っている。無駄な出力を控えるのも、研究者らしい合理的判断。
なお、変身機能だけは例外だ。
これは外見を魔力で固定する仕組みになっていて、術式の一部を解除することはできない。
変身を解くには、専用の指輪を外すしかない。
勝手に姿が崩れたり、干渉で解けたりしないように──それがこの魔法の設計思想であり、安全装置でもある。
──────────
ギルドの掲示板前。
最近、私は何度かカイルとクエストをこなし、気づけばもうブロンズランクに上がっていた。
──ちなみに、ギルドのランクは下から順に、アイアン、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、ダイヤ、そして最上位のミスリル。
アイアンは、冒険者登録した際に誰でも割り振られる初期ランクで、実績をいくつか積めば比較的すぐにブロンズへ上がれる。
基本的にアイアンでもブロンズまでのクエストは受けられるが、ランクが上がるごとに報酬や信頼度、参加可能な依頼の質も変わってくる。
さらに、ゴールド以上になると、ギルドの施設自体が別の建物に分かれており、受付や掲示板、応接スペースなども完全に区切られている。
表向きは“混雑緩和”や“依頼の質の調整”という名目だが、実際のところは、それなりのランクに見合った扱いというわけだ。
ランクアップにはポイント制が採用されており、依頼の難易度や達成率、継続的な実績などが評価対象になる。
その他にも規約や査定項目は山ほどあるけど……正直、全部読む気にはなれなかった。なので割愛。
(いっそ、シルバーまで上げちゃえば?)
そんな声が、ふと頭の中でささやいた。
駆け出しの若い子たちを“先輩ポジ”でリードする立場に立てば、恋のきっかけを作るのも楽になるかもしれない。
何なら、同じシルバー同士の出会いでもいい。
今の時期、冒険者の入れ替わりはそれほどない。
ギルドでよく見るブロンズ帯の面子は、もう大体把握してしまった。
(……いい子、どこかにいないかな)
そんなことをぶつぶつと考えながら掲示板を見上げていると──
「……あの、ちょっといいですか? レイさん、ですよね?」
軽い調子の声と共に、声をかけてきたのは茶髪の軽薄そうな男だった。
「自分、ロウって言います。ちょっと話、いいっすか?」
「……はい。そこのテーブルで話しましょう」
近くのテーブル席に腰を下ろすと、ロウも向かいに座った。
「改めて。俺、シルバーランクのパーティー“木洩れ日”で斥候やってます。
で、実は……最近、魔法使いの子が抜けちゃって」
「抜けてしまったんですか?……何があったんでしょうか?」
「いやいや、そういうのじゃなくて。体調不良っす。もともと身体があんまり強くない子で、自分から“もう無理かも”って脱退を申し出たんです」
それは大変でしたね、と相槌を打ちながら話を聞く。
「それで今、代わりの魔術師を探してるんですよ。ちょっと前から、レイさんの噂、ちらほら聞こえてきてて」
「噂ですか?」
「精度の高い補助魔法使う、駆け出しのすごいかわいい子がいるらしいって。
……実はちょっと話しかけづらかったっす。ははっ」
悪い印象はなかった。なんかいいやつそうだな、と思った。
(こういうの、主人公の親友ポジにいそうなタイプよね)
正直、理想の恋愛も全然うまくいかないし……。
アプローチの手法を見直すには、ちょうどいい機会かもしれない。
「……とりあえず、パーティーの人たちと顔合わせしてみたいです」
「ほんとっすか!? いや、嬉しいっす。今日はみんなバラバラに動いてて、明日の朝なら全員そろうはずです! ここ、またこのギルド前で!
◆
翌朝。ギルドの前。
ロウに案内されて顔合わせに来た私の前にいたのは、彼を含めて三人のメンバーだった。
まず目を引いたのは、一番前に立っていた女性──たぶん前衛職。身長は高め、筋肉質というほどではないが、腕まわりの装備の重厚さと立ち方からしても実戦経験はかなりありそうだった。
何より、いかつい。喋る前から、声がデカそうな予感しかしない。
「おっ、あんたが噂のレイちゃんか! あたしはグリダ。前衛やってる」
ほら来た。
「うちのロウがずーっと話しててさ、どんなお姫様が来るかと思ったら……へえ、意外とやる気ありそうな顔してんじゃん?」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
笑顔で丁寧に挨拶を返す。
次に目を向けたのは、斜め後ろに立っていた青年。
あ、何度か見かけたことがあるかもしれない。どう見ても一番目立っていたのはあの女性だったけれど、私の目にはいい男しか入っていなかった。
(あー……前から、ちょっと爽やかだなって思ってた人だ)
涼しげな目元に落ち着いた物腰。声は低くて静かだが、無愛想ではない。そう、いわゆるクール系。
「ヨウマ。槍使いで、サポート寄りの前衛だ」
「レイです。魔法使いです。補助と、少し攻撃も……よろしくお願いします」
彼の目がすっとこちらを見て、小さくうなずいた。
(……まあ、これくらいの年齢でも、悪くないかもしれないわね)
(むしろ、引っ張ってくれるタイプなら、それもまたアリ!)
私はその場で、二つ返事で加入を申し出た。
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