第1話 擬態魔装《メイクアップ・シェル》
三十二歳、恋愛経験ゼロ。
魔法研究職。現在、婚活強行モード突入中。
きっかけは、ふと読んだ恋愛冒険小説だった。
甘酸っぱいすれ違い、ドジで不器用な女の子と、年下で真面目な剣士くん。
読みながら、私、気づいたのよね。
――あ、人生終わる。灰色のまま終わるって。
だから、私は研究した。研究して、創った。
かつて誰も見向きもしなかった変身魔法。
その名も、
もちろん、完全に私のオリジナル魔法。
全身に魔法陣をちょこちょこっと刻んで、魔力で外見を包んで、指輪でそれっぽく安定させて。もちろん、変身中に魔法陣は見えないし、魔力と指輪さえあれば何をしても解けることはない。 費用対効果? 知らないわよ。
とにかく私は、若くて可愛くて恋に憧れる“十六歳のレイ”になったの。
……さあ、婚活と冒険の旅、始めましょ。
―――――――――――
ギルドでの登録を済ませたその日の午後。受付から一歩離れたところで、早速声がかかった。
(……まあ、これだけ美人なら当然よね。若作りって最高)
「なぁ、俺とクエスト受けない? さっき登録したばっかりなんだろ?」
声をかけてきたのは、私より少し背の高い、いかにも“駆け出し慣れしてる”風の男だった。黒髪を後ろで束ねていて、顔は――まあ、悪くない。むしろちょっと好み寄り。
「このラビビット討伐、俺慣れてるからさ。すぐ終わるし、取り分も半分。どう?
魔法使いなんだろ? 最初はいろいろ大変だろうし……一緒に組もうよ」
ラビビット。近辺に生息する跳ね兎の魔獣で、駆け出し冒険者の定番モンスター。狩って肉にすれば食事にもなる、いわば“飯のタネ”だ。
駆け出しの魔法使いは何かと大変なのだ。日に何度も魔法が使えるわけではないし、純粋な戦闘職に比べると瞬発力にも欠ける。だからこそ、物理系の戦闘職が自分から声をかけてくれて、報酬も平等に分けてくれるというのは、駆け出し魔法使いにとってはかなりありがたいことなのだ。それゆえ、危険も多いのだが……
(……まあ、私には関係ない話だけどね。魔力量も経験も、駆け出しとは比べものにならないし。でも最初のクエストだし、まぁまぁ好みだし……付き合ってあげるくらいはいいか)
「……は、はいっ! ぜひっ、お願いしますっ!」
と、あどけなく笑う“十六歳のレイ”が、演技開始。
こうして私は、最初に声をかけてきた彼とパーティを組むことになった。
◆
私たちは軽く自己紹介をした後、目的の狩場まで三十分ほど歩いた。
道中、彼――ジョンというらしい――はずっと喋っていた。
俺に声をかけられたのがいかに運が良かったかとか、取り分は気にするなとか、将来的にはもっと強くなる予定だとか。
(あー……ダメね、これ)
最初はちょっと期待したけど、話を聞いているうちにどんどん興味が薄れていった。
冒険小説に出てくるような、寡黙で頼れる年下剣士くんとは程遠い。
(まあ、最初からうまくいくなんて思ってなかったし。いい経験ってことで)
そうして到着した狩場で、ジョンは言ったとおり、一人でラビビットを狩っていった。確かに手際は悪くない。
狩りを終え、クエストを終えて報告書をまとめた後、彼がにやっと笑った。
「なあ、レイ。思ったより動けてたし、今後も組んでいかないか?」
「えっと……ごめんなさい。しばらくは一人でやってみたいので」
最初はやんわりと断ったが、ジョンは食い下がった。
「いいじゃん、俺いろいろ教えられるし、危ない目にも合わせないよ?」
「ほんとに、気持ちはありがたいんですけど……」
しつこく迫るジョンの態度に、徐々に警戒心が芽生える。
そして、宿の裏手。人気のない場所に呼び出された時、決定的に察した。
「ねえ、ちょっとだけでいいから……ほら、誰にも見られてないしさ」
その手が伸びてきた瞬間、私は笑顔のまま、指を弾いた。
「おやすみなさい、ジョンさん」
すぅ、と空気が揺れて、ジョンはその場に崩れ落ちた。睡眠魔法。効き目は三時間ほど。
ついでに軽く記憶にも細工しておく。名前と顔、それにさっきの会話も曖昧に。
(……念のためね。顔覚えられてたら、次に進めないし)
私は溜息をひとつ吐いて、荷物をまとめながら呟いた。
(……はい、最初は失敗っと。次いこ、次)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます