第7話

 束縛から逃れたランダルフが手足の状態を確かめている。縛り上げられていたものの、特に痛めつけられたりはしていなかったようだ。ランダルフは入口で伸びている兵士の手元から剣を拾うと、状態を確かめて「ふむ。」などと言っている。

「セレナはまだ来ていないようだな。」カイラムが聞く。

「別行動を取っているのですか。」

「やむなくな。」

「では、貴方はセレナを探しに行ってください。私はヴェルナーを救出しに行きます。」

「一人でか?どう考えたってセレナを見つけて三人で行ったほうがいいと思うが…。」

「こうしている間にもヴェルナーがどんな目に遭っているかわかりませんので。では、セレナの事はよろしくお願いします。」

 言うが早いか、ランダルフは採油所へ向けて駆け出していった。

「あ、おい。ちょっと待て。」カイラムが止める間もなかった。本当に身勝手な奴らばかりだな、と憤慨する。仕方ない。あっちはランダルフに任せて、セレナを探しに行くか。


 採油所の一室は二人の男が放つ緊張が場を支配していた。

「何のことだ。」ヴェルナーが素っ気なく言う。

「フッ、しらを切るか。」ヴァルツが捕らえられている村人へと顔を向けて言う。「貴様が言わなければここにいる人間に危害が及ぶことになる。」

「騎士様がご立派な事だな。」

「黙れ!」ヴァルツが怒りの形相でヴェルナーを睨みつける。

「レイヴィス様の為ならこの手を汚す覚悟はいくらでも出来ている。」

「ほう、レイヴィスという男はそれほどの男か。」ヴェルナーが興味深げに言う。

「没落して反乱組織を率いてる人間にはわからんだろうがな。」ヴァルツが嘲笑う。

「そして貴様が没落した時のどさくさで聖遺物を持ち逃げしたことは掴んでいる。」

「知らんと言っている。」

「そうか。ならば。」ヴァルツは村人の傍らに立っている兵士に目配せする。「やれ。」

「…はっ。」兵士が剣を鞘から抜き放つ。そして一人の村人の首元へ切っ先を突きつける。「…悪く思うな。」


 セレナがルガ村の村内を右へ左へと疾走している。多少覚悟はしていたものの追ってくる兵士の数が想定外だった。

「待て!」一人の兵士が足を止めて蒸気銃を構える。セレナは少し顔を向けると跳ねると壁を蹴って高く飛び上がる。蒸気煙を吐き出して射出された弾丸は大きく的を逸れて虚空へと消える。セレナは飛んだ勢いを利用して体を翻すと発砲してきた兵士に対して投げナイフを投げ放つ。一閃されたナイフは空を切り裂きながら突進して兵士の脚へと突き刺さる。「うわああ!」兵士は一瞬後にやってきた激痛に情けない悲鳴を上げて崩れる。

 一人!しかし、追ってくる兵士はまだいる。セレナは音も立てずに着地すると、再び駆け出す。手持ちの投げナイフは残り一本。出来れば蒸気銃を拾いたいが、その暇が無い。

 セレナが曲がり角に差し掛かろうとした時、回り込んでいた兵士が前方から姿を現した。

 しまった!急いで引き返そうとするが、後ろからも追手の兵士達が迫ってきていた。まずった。囲まれた。

「手こずらせてくれたな。」そう言いながら一歩一歩ジリジリと歩みを進めてくる。ありきたりなセリフだな、と思う。周囲を油断なく見回しながらナイフ一本で切り抜けるにはどうすればいいかを考える。

そこに、「うおりゃあああああ!」という叫び声が前方から聞こえてくる。前方の兵士が声の方向へ顔を向けると、勢いよく飛び込んできた男の飛び蹴りを喰らって敢え無く吹っ飛んでいった。

「カイラム!」セレナが安堵の声を上げる。

「ようやく見つけた!なんでさっさと離脱してないんだ。お陰で村中走り回る羽目になっただろ。」まだ兵士がいるのをお構い無しにカイラムが文句を言っている。

「ちょっと予想より兵士が多くって。こっちも大変だったんだって。」

 言い合いをしているとカチャッと音がする。振り向くと追っていた兵士達が蒸気銃を構えている。しまった。言い合いをしている場合じゃなかった。

「させるか!」カイラムが、いつの間にか光り輝いていた右拳を地面へと叩きつける。光を放ちながら衝撃波が地面を疾走り銃を構えていた兵士達を吹き飛ばす。

「これで片付いたな。とっととヴェルナーの所へ行くぞ!」カイラムがセレナの元へと駆けてきながら言った。


 兵士が剣を振り上げる。「ひいっ。」と顔を蒼白にしながら村人が悲鳴を上げる。剣が村人の首へ振り落とされようとする。ヴェルナーが歯を食いしばる。「やめろ。」と言おうとする。その時。

 ドカアーーーーーーーーーンという轟音が建物の外で響いた。

「なんだ!何の音だ!」

 兵士達の間に動揺が走る。その隙を見逃さなかった。ヴェルナーは脇を固めていた兵士達を振りほどくと、剣を振り上げていた兵士へ向かって突進し勢いごと体を叩きつけた。兵士は吹き飛んで剣を取り落とす。

「無駄なあがきだな。」ヴァルツが落ち着き払って言う。「状況は何も変わっていない。」

「どうかな。」ヴェルナーが答える。もう少しだ。もう少し時間を稼げれば仲間が助けに来る。しかし後ろ手に縛られた状況では剣を拾うことが出来ない。

「望み通り、少し痛めつけてやれ。くれぐれも殺すなよ。」ヴァルツが言う。

「はっ。」部屋にいる兵士達が剣を抜く。吹き飛んで倒れていた兵士も体勢を立て直している。とりあえずヴァルツが手を出してくる気配はない。三人か。面白い。ヴェルナーは攻撃に備えて腰を低く落とす。

 一人の兵士が大振り気味に斬り掛かってくる。ヴェルナーは体を捻りながら回避すると腹部へと蹴りを叩き込む。しかし不自由な体勢では十分な威力を出すことが出来ない。次の兵士が動きの止まったヴェルナーへと向かって横薙ぎに剣を払う。ヴェルナーは倒れ込みながら回避する。

 ヴェルナーが立ち上がろうとする。「遅い!」後ろに回り込んでいた兵士が剣を振るう。ヴェルナーは前傾姿勢になると腕を突き出し、振り下ろされた剣で腕を縛り上げていたロープだけを斬らせる。

 ヴェルナーは素早く動き出すと一人の兵士へと間合いを詰める。そして瞬時に腹、顔、顎に拳の連撃を叩き込み撃破すると剣を奪い取る。

「う、うわああああ!」一人の兵士が剣を振り上げる。その瞬間に既に間合いを詰めていて、寸分の無駄の無い一撃が叩き込まれている。その隙に残りの兵士が後ろから剣を振り下ろしていた。ヴェルナーは体を翻しながらその一撃を躱すと、その勢いを利用して横薙ぎに一閃する。一瞬の内に部屋にいた三人の兵士は倒れ伏していた。

「ほう、流石だな。」ヴァルツが関心したように言う。「この状況を打開するとはな。」

 そこにランダルフが血に濡れた剣を手に部屋へ飛び込んでくる。そして部屋の状況を一瞥すると、「どうやら私の助けは必要なかったようですね。」と言った。

「いや、助かる。村人を解放してやってくれ。」ヴェルナーがいつもと変わらない調子で言う。「俺はこいつに借りを返す必要があるのでな。」


 採油所へと向かってカイラムとセレナは足を進める。辺りを見渡すと、時折切創を負った兵士達が呻きながら倒れているのが見える。

「これ、ランダルフが一人でやったのか。」カイラムが呆れた様に言う。

「多分ね。」

 凄いな。まるで通り魔だな。あのオッサンは怒らせない方がいいな、と思う。しかし、命までは取らない程度に収めているのは流石というか、なんというか。

 二人が採油所の前まで来ると、出入り口から村人達が姿を見せ始めた。その中にランダルフの姿もあった。

「ランダルフ!」セレナが声を張り上げる。「ヴェルナーはどうしたの?」

「セレナ、無事でしたか。」ランダルフが安堵する。「ヴェルナーならまだ中にいます。」

「おいおい、助けに行かなくていいのかよ。」

「あの方なら一人でも大丈夫ですよ。ところでジュドーはどうしています?」

「外で待機させてるよ。」

「呼んできましょう。増援が来られても厄介です。いつでも村を出られるようにしておかないと。」

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