project史縫
月夜崎 雨
【第一章】星の香り 1
静寂が支配している。
寂れた納屋の、隙間から洩れる月光。寝床に横たわる私を、静かに照らしている。
壁の隙間に目をやれば、荒れた参道と崩れかけの鳥居。溜息がひとりでに出る。
限られた者しか知らない、とある高原の、とある神社。私はこの「
私は静かに起き上がる。眠りにつけない鉛の身体。心にささる錨が、それをさらに促進させている。
一人の夜は、どこか寂しい。静かすぎる無機質な空間に、私だけが存在している。もしそばにだれか居れば、もし触れられるぬくもりがあれば、今を直視しなくてもいいのに。隣に手をやっても、そこは薄い布団のみ。ほんのり、私の暖かさが残っている。
身体を無理やり動かし、外に出る。
無風の空間に、かすかな虫の声。頭上の空には、無数の星々が輝いている。一つくらい、それを取って私のそばに置いておいてもいいほど、数えきれない。
見蕩れてしまう。まるで地面にへばり付くことしかできない私を吸い込んでしまうようだ。手を伸ばせど届かない、本当にあるのかも分からないモノだけれど、私の身体は星々の美しさを長く感じようと動かない。
私は苔むした参道に背を付ける。ひんやりとした冷たさと、体内でうごめく血のあたたかさ。
ああ、もうこのまま死んでしまってもいい。自然に身を任せながら逝けるのなら、それが本望だ。
私は静かに目をつむる。光の無い景色と、身体を揺らす風。意識がだんだんと遠のいてゆく。
◇
ぱちぱちと、火が木を侵食する音で目が覚めた。
天井を見上げると同時に勢いよく起き上がった身体。さらりと、身体にかけられていた布団がずれる。視界には、見覚えのある物達。ずっと暮らしていた、境内の中にある家の中だ。
「起きたか、
銀髪の、エプロン姿の同居人の姿が映る。
「狼ちゃん……ごめん、寝坊しちゃった」
記憶がするりと入ってくる。そうだ、私は銀髪の彼女——狼ちゃんと暮らしてて、いつも朝ご飯を作っていた。あわてて起き上がり台所へ駆け寄る。夜の空気を感じていたはずの感覚は、濃くなってゆく白ご飯の香りにかき消されてゆく。
夢から覚め、いつも通りの一日が始まろうとしている。
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