賢者探偵~死んだ勇者の真実を追え~
猫電話
第1話 病床の賢者は考察する
「おじいさん?大丈夫ですか?薬飲めそうですか?」
「ん?ああ、カーナか……いつもありがとうな」
わしは孫娘のカーナの声で目を覚まして、カーナの操作するベッドに身を任せて上半身を起こす。
「しかし、勇者のおかげで本当に世の中は便利になったものよの?」
「はいそうですねおじいさん、何度も聞いてますよ」
このベッドは勇者が残した知識を元に魔道技術を用いて、かの者の故郷の世界に有ったとされるベッドを再現している。
わしも十分に歳を取った。
このわしがこのベッドのお世話になるとはな……
「はい、おじいさん、お薬ですよ?あーんしてくださいね」
「おお、あーん」
わしの孫娘は本当に良い子に育った物だ、わしの生活の補助を買って出てくれて本当に親身になって尽くしてくれる。
「はい、お水も口に含んで下さいね?」
「う、うむ」
クスリ一つ飲むのももう大変になってしまった。
時間は殆ど残されておらぬ、わしが死ぬまでにあの事件の真相を解明しなければ誰も真実への扉を、二度と開こうとはしないじゃろう。
「はーい、ごっくんしてください」
「うっぐん」
コップ一杯の水でも一歩間違えば溺れてしまいそうになる程に、この身体にがガタが来ている。
「わー!上手く飲み込めましたね!えらいです!」
「おう、ありがとうな」
孫娘は良い子なのじゃが若干わしを子供のような扱いをするのが玉に傷じゃな。
「ところで、わしの書きかけの皮羊紙はどこじゃ?」
「え?ひようし?」
ああ、そうじゃった!勇者の持ち込んだ知識のおかげて、我が国は皮羊紙のような生産コストの高い紙では無く、植物繊維を使った紙がずいぶん昔から一般的になっておったわ。
わしはどうしても昔の癖で紙と言ったら皮羊紙と言ってしまう。
「ああ、すまない、いつもメモを書いてる紙束じゃ」
「あ、このノートですね!」
そう言って孫娘がわしに手渡してくれたのは冊子状のノートと言われる紙束じゃ。
このノートも勇者の持ち込んだ知識によって作られたんじゃったな。
「うむ、そののーとじゃ」
「はい、どうぞ!、シャープペンも必要ですよね?はいどうぞ!」
そうそう!しゃーぷぺんと言われる木炭を芯にして外殻を別で作る事で、木炭の芯を追加する事でいつまでも書けるペンも勇者の知識じゃな。
しかもこのしゃーぷぺんで書いた物はこのゴムのような物でなぞれば消す事が出来る。
実に便利じゃ。
「それじゃ、私は台所の方に居るから、何か用事があったら声掛けてくださいね?」
「うむ!今日の昼ごはんと晩御飯じゃな!何を作ってくれるのじゃ?」
「材料の残りを見て考えますね?何か希望とかありますか?」
「いや、任せるよ!カーナの料理はなんでも美味いからな!」
「あら?嬉しい事言ってくれますね!じゃぁ張り切って作りますね!」
そういって孫娘は台所の方へ消えた。
さて、では昨日の考察の続きを行うか。
そもそも、勇者は事故で死んだ事になっているが、わしはそれはあり得ないと踏んでおる。
なにせあの勇者じゃ、あの事故では勇者が死ぬには些か大した事故では無かった。
そう思いつつ、ベッド横の本棚から一冊の本を取り出す。
この本は、この世界を脅かしていた魔王を討伐した勇者パーティーの冒険譚と勇者の非業の死を綴っておる。
かくいうわしも勇者パーティーの一人で、賢者としてあらゆる場面を持ち前の高度な魔法で乗り越える事に尽力したものじゃ。
「この頁じゃな……」
わしは静かにその本のほぼ最後の方を開く。
何度も何度も読み返した部分だ。
ここの記述は、わしら魔王討伐の勇者パーティー仲間の一人、聖女のラスティナの証言が元になっておる。
「あの日、わしも着いて行っておれば……いや、考えても詮無き事よな」
そのページの文字一つ一つを懐かしい思いと共になぞりながら読む。
「勇者はこの日、いつもと変わらぬ笑顔であの山へ登っていった。『わたしはどうしても外せない用事があって、後で合流するつもりでした……ああ、私が用事をもっと早く済ませる事ができていたなら』聖女ラスティナはそう涙を流しながら語った。」
ラスティナも実際の所、事故の瞬間を見ておらぬ。
あの山は普通の人間では近寄ることすら出来ぬ、魔の山として恐れられておったからな……ラスティナだけではない……誰もその瞬間を見ておらぬのだ。
「ラスティナが勇者の元へたどり着いた時には、既にその魂は天に返っていた。聖女の力をもってしても、その魂を呼び戻す事は二度と叶わなかったのだ。」
そもそも、ここが変なのじゃ……ラスティナの奇跡の力であれば、生き返らせる事は不可能では無い筈じゃ。
その軌跡をわしもあの旅で何度も目にしておる。
その軌跡の力が叶わぬのは、死してまる一日経過してしまった場合じゃが、ラスティナが勇者に遅れて山に向かったのは、半日も過ぎておらんかったと聞いている。
であれば、奇跡の力が効かない筈がないのじゃがな……
「おじいさん、おひるごはんできましたよ?ベッドの側にお持ちしますね?」
不意の孫娘の声で現実に引き戻される。
「おお、そうかそうか!それじゃぁ食べさせていただこうかのう!」
わしは一旦思考の海から出ると、今は孫娘の料理に集中すべきだろうと、孫娘がお盆に料理を乗せてこちらに来る姿を暖かい目で見守った。
「夜ごはんの方は冷蔵庫に入れてますから、温めて召し上がって下さいね?」
孫娘は、わしの側に腰を下ろすとレンゲで掬い上げた料理をわしの口に運んでくれた。
「むぐむぐ、うむわかった!いつも助かるの!」
こうして、本日のわしの考察作業は一旦お休みとするのじゃった。
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