第8話 刺客
「おい!早く逃げろ!」
「だめだ、こっちにも火の手が?!」
「く、苦しい…たすけ…て」
「おかあさん、いやだよ…いっしょにいこうよ…」
「だ…めよ…ひ、ひろ君だけでも…行って…」
家屋の燃える音、悲痛に満ちた声、炎の熱気と焦げ臭い臭気。
地獄さながらの街中を、拓海は歩く。
本当は走りたいところだが、百合を抱えてた状態では普段通りの歩行速度を出すので精一杯であった。
「はぁ…はぁ…少しでも…速く」
目の前の道標は、一定の距離を保ちながら進むべき方向を示す。
「…百合姉、もう少し待ってて」
意識のない百合に話しかける。
「…拓海、拓海か?!」
呼び声と共に、駆け寄る足音が聞こえる。
「お、叔父さん…?!」
「良かった!百合も一緒なのか!」
「ど、どうしてここに?」
「学校の方で火の手が上がったと聞いて、様子を見に来たんだ。まさかこんな事になるとは…」
「…そうだ!叔父さん、車で来たの?」
「もちろん!一刻も早く安全な場所に行くぞ」
「わか…」
分かった、と言いかけた所で、拓海は言い淀んだ。
―このまま一緒に行くと、叔父さんたちまで巻き込むんじゃ…―
「拓海!早くしなさい!」
叔父の叱責で我に返る。
「わ、分かった!」
そう言って踏み出そうとした時だった。
「何だぁ、まだ死にぞこないが居やがったなぁ」
場違いな歓喜に満ちた声。
見ると、炎を背景に佇む二人組が居た。
「何が死にぞこないですか。よく見なさい、あれは標的です」
低く落ち着きのある声。
「標的ぃ?」
「やれやれ。あなた、苦労してここまで来た目的を忘れましたか?」
周囲の状況など意に介さぬ二人の会話は、異常と言う他無かった。
「感知を使いなさい。後ろの二人が『秘宝』と『器』です」
「ん~…おっ?マジじゃん!あっぶね~」
「さ、切り替えなさい。仕事の時間ですよ」
「ほっほ~い!」
拓海も叔父も、異様な二人の出方を伺っていた。
「…拓海、私が歩き出したら、走り出しなさい」
「えっ…?」
「私が注意を惹く。その隙に逃げるんだ」
「そ、そんな…!」
「百合を…頼んだぞ」
それだけ言うと、叔父は二人組に向かって歩き出す。
一瞬の逡巡があったが、拓海は踵を返して走り出す。
「あんた達、話があるなら私が聞くぞ!」
叔父が大きな声で話しかける。
次の瞬間、背後で閃光と共に破裂音が響く。
「ひゃはははっ!きれいに飛び散ったなオイッ!」
「…はぁ。追いかけますよ」
―叔父さん、ごめんなさい…!―
拓海は、振り返らず走り続けた。
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