第30話 カーネリアンのボス代理




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ほこらでメカルテは封印されていた。その封印には巫女が必要だという言い伝えがあり、いわば迷信の類だと思われている。




 しかし実際は違った事に気づいたのは、支配したメカルテを拠点に連れ帰った後。巫女の魂を生贄にして、代々メカルテの弱体化が維持されていた事が判明した。




 カーネリアンが持つ最高位の強制銃でさえ、支配できるのはレベル70が限界。このままでは弱体化が治り、メカルテが本来のレベル90に戻ってしまう。




 せっかく手に入れた特例指定モンスターだ。このままメカルテを手放すのは惜しい。



 何としても現代の巫女であるクラリスを殺し、メカルテを弱体化する儀式を行いたい。



「よりにもよって、天衣ショウに知られるなんて……」



 地下の奥深く。まるで普通の城みたいな豪華な内装。その一室で赤髪の中年女――ドーリスが資料を眺め、溜息を吐く。




「ウィリアムの方からコンタクトを取ったのかもな。どうせ手詰まりなら、ジャスパーの力を借りれるか試すのも十分に有効だからな」




 茶髪の中年男――フリッツは、ドーリスと同じく、カーネリアンを象徴する白い軍服を着ている。しかし胸に付けれた赤いバッジは、ボス代理の象徴。




 今のカーネリアンは彼が中心となって、組織を運営しているのだ。



「どうしますか、隊長」



 ドーリスは少し小太りで、顔はあまり良くない。しかし容姿に分不相応な自信を持ち、凄くケバイほど化粧を塗りたくっており、余計醜い姿となっている。




 彼女の化粧の濃さは、プライドの高さを表しており、部下は誰一人彼女を前にして笑う者はいない。



 自分が馬鹿にされたのだと判断し、その場で相手を殺すほど彼女は気が短いのだ。



「これは我々にとっては、寧ろ好都合。ショウが加わった事で、クラリスが死ぬ事態は回避できた。分かりやすくて良いじゃないか。今回の戦いで決まるんだ、どちらが世界を征服するのか」




 フリッツは少し細身であり、頬がこけている。目にも覇気がなく、本当にボス代理なのか疑ってしまうほど、気怠そうな様子だ。




 何だか頼りない見た目ではあるが、これでもカーネリアンを率いる長として優秀であり部下から信頼も厚い。




「天衣ショウはよほど自信があるんでしょうね。こちらがメカルテだけではなく、精鋭を全て引き連れて襲撃を仕掛ける事も、想定しているでしょうに……」




 ドーリスは気が短い性格だが、決して馬鹿という訳ではない。天衣ショウを相手に自分より遥かに年下だからと、警戒を解くような事はしない。




 寧ろリーグ試験の一件を重く受け止め、彼の速やかな排除に最善を尽くすべきだと判断している。



「寧ろ、それを期待しているんだ。この際に我らカーネリアンを壊滅させるつもりだろうな……」



 フリッツは資料を両袖机の上に置き、席に着く。片手にコーヒーの入ったカップを手に持ち、正面に顔を向けた。




「どうメカルテに対処つもりですか?」



 彼の目を見てドーリスは尋ねる。



「特例指定モンスターは、通常モンスターと同じレベルだとしても、基礎能力が倍近く高い事が特徴であり、それはショウも重々承知しているだろう。その上で倒せると判断しているとすれば……、恐らくショウのテイマー補正は極めて高いはず……」




 天衣ショウに関する資料に目を通しながら、フリッツは目を細め、コーヒーを飲む。



「彼に限れば、ある程度の過大評価した上で挑むべきでしょうね。念には念を入れないと足を掬われてしまう。そんな予感がするのよね……」




 被害妄想が強いドーリスは、当然だが警戒心も強い。本人も必要以上に恐れているとは理解つつも、天衣ショウの戦いぶりを映像で確認する度に不安が込み上げてしまう。




「クラマルは野生モンスターでいう、レベル63程度の基礎能力。加えて、テイマー補正による基礎能力強化は、20%。愛情補正で基礎能力は30%上昇……。これくらいの能力を想定するべきか……」




 フリッツは冷静に判断した上での想定より、更に盛った能力値を口にした。部下に聞かせたら笑い飛ばされてしまうような過剰な評価だろうが、彼は真剣だった。




「記録に残っている歴代最強のテイマーですら、基礎能力強化は15%だけど……。彼なら20%あっても不思議じゃない、か……」




 彼女は大きく溜息を吐き、部屋の隅に向かって歩く。そして台の上に置かれた菓子と缶コーヒーを手に取る。




「だが、我々の戦力にどう対処するつもりなんだろうな……。メカルテはレベル70まで弱体化しているとはいえ、基礎能力は野生モンスターでいう、レベル90……。レベル60程度のクラマルがメカルテに勝てるとは、到底思えないが……」




 常識外れな想定をした上で、フリッツはショウがメカルテに対抗する手段を考えた。



「未知の強力な技。相性の良いタトゥー。どうにかしてメカルテに食らいつくつもりでしょうね……」



 ドーリスは思い出す、リーグ試験会場でクラマルが見せた神死斬りを。あの技はゲーム知識を持つショウだからこそ覚えさせることができた強力な技だ。




 彼以外の誰もモンスターに習得させた事はない。故に、ドーリスやフリッツにとって見れば未知の技である。




 アレに匹敵する技を他にも有しているとすれば、確かにメカルテに対抗し得るかも知れないと彼女は危惧していた。




「一番可能性が高い手段は、クラマルが相手している間に、銃所有者を殺す事だ」



 フリッツは強制銃で最大の欠点が、繊細な命令式が難しい事だと思っていた。故に身を守るとすれば、テイムして育てたモンスターである事が理想。




 だからこそショウが銃所有者を狙う事に最善を尽くした場合は、メカルテだけでは対処しきれないと言う確信があった。




「確かに天衣ショウからすれば、時間稼ぎさえできればそれで十分……。他のテイマー達と協力して、私達を一網打尽にするつもりかも知れませんね……」




 ドーリスはショウに命を狙われる事を想像するだけで、少し冷や汗を掻いている。何せ十数年の付き合いのある先輩だったイライジャが、一瞬で命を刈り取られたのだ。




 彼女にとって一ヵ月前の事件はトラウマそのもの。天衣ショウはできるだけ早く始末しておきたい難敵だった。




「だがショウは――あまりに若いな。まだ我らを相手取るには思慮が足りんようだ。こちらの切り札がメカルテだけと思っている時点で、奴らは浅すぎる」




 懐から取り出した拳銃を手に、フリッツは眉間に皺を寄せた。



「……そうですね、本当に。あえてこの一ヵ月間反撃せず一方的にやられていたとも知らず……、こちらの想定通り調子に乗ってくれた。勝てると思っているのでしょうね」




 あえて防げる襲撃や暗殺を見逃し、最大限油断を誘う。これはドーリスが、対天衣ショウを想定して提案した策だ。




 戦力で著しく劣るから何の仕返しもできず、逃げ回る事しかできない。ショウが呑気に食べ歩きしても奇襲すらできない。




 そう思わせておいて、決戦まで戦力を隠し通す。彼女は天衣ショウを調子に乗せる為だけに、これまで多くの人員を犠牲にし続けてきた。




「奴は知らない、こちらにはメカルテの他にもう一体、特例指定モンスターがいる事を。どんな秘策を持っていようと、関係ないさ」




 目を閉じ、勝利を確信しているフリッツ。「そうね」ドーリスも大きな不安を抱きつつも頷いた、これで何の支障もないはずだと。





――――――――


〈あとがき〉


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