第20話 会心の一撃!!


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「まさか俺達を相手に勝てるとでも――」



 傲岸不遜なショウの態度に、不敵に笑うイライジャ。



 彼の言葉を遮って、「少し急いでいるんだ。悪いね……。クラマル――全員殺せ」とショウは命令式を言葉に編み込む。




「「「――――ッ」」」



 濃密な命令式の気配に、周囲の者は戦慄していた。プロの平均的な命令式の約40倍もの情報量が、たった一言に込められていた。




「にゃ」



 可愛らしく返事をして飛び出したクラマル。ぴょんぴょん駆けながら、軽くイライジャに近づいている。



 基礎能力を感じる限り、クラマルは大して強くない様に思える。しかもテイマー補正で基礎能力の強化すら殆どされていない。




 つまり野性のモンスターでいえば、レベル50程度の基礎能力だろう。元世界王者のイライジャからすれば、取るに足らない存在だ。




 何せ彼のゲルガルはレベル55。しかもレベルアップ時の能力上昇値は35%。テイマー補正による基礎能力強化は15%。




 そしてゲルガルに匹敵するモンスターが後6体。加えてプロに匹敵する実力者の部下が二人いるのだ。



 このクラマル一匹に負けるとは到底思えなかった。



 だが、命令式の情報量が多すぎる故にモンスターが何をしでかすか分からない。傲岸不遜な態度のショウが、何の勝算もなくクラマルを突っ込ませるとは思えない。




 故に――。



「気を抜くな……!」


「全力で仕留めろ……!」


「援護しなさい!」



 イライジャの命令でゲルガルや他のモンスターも身構え、全力で臨戦態勢に入る。



 それに比べマテオの指示は好戦的であり、すぐさまクラマルを始末させようとする命令だった。エイヴァは攻撃の援護に回る指示を出す。



「――にゃ」



 一瞬。クラマルの動きがぶれた。



「――――ッ!」



 いつの間にか接近したクラマルに、ギラグマは反応できず腹をぶん殴られた。勿論、会心の一撃。眩い発光と共に青白い魔力が迸る。



 その上、威力が尋常ではなかった。



〈神死斬り〉

 闇属性の近距離攻撃。威力40。命中80。会心の一撃は威力を300%上昇させる。



 ゲームでは、一体にしか覚えさせられない壊れ技として扱われていた。これにより近距離攻撃を強化していないクラマルでさえ、高い威力を叩き出せる。




「…………」




 声すら上げる間もなく、ギラグマは壁に叩き付けられ、肉体が死を迎えた。たった一撃だった。



「「――――ッ」」



 想像を絶する威力にイライジャとエイヴァは戦慄する。こんなのD級モンスターのクラマルが出していい威力ではないだろと、彼女は恐怖と動揺で手が震える。




「にゃ」




 モンスターズZは、素早さゲーだと言われていた。それはこの世界でも変わらないのかも知れない。



〈大きさ補正〉

 テイマー用語の一つ。モンスターは大きいほど、攻撃範囲が広くなる。しかし素早さが低下するという欠点もある。逆に小さいモンスターは攻撃範囲が狭くなる代わりに、素早さが上昇する。




〈素早さ補正〉

 相手のモンスターより素早さが上だと、モンスターは技の命中率が上昇する。逆に相手のモンスターより素早さが下だと、命中率が低下する。




 つまり素早いほど、命中率が高く、回避率が高い。その上、命中率や回避率という事はカウンターもしやすくて、会心率が上昇する。




〈回避のタトゥー〉

 モンスターの素早さを30%上昇させる。



 これにより更に素早さが上昇している上に、ショウのアビリティも発動中だ。



〈アビリティ〉

愚者の王。C級以下のモンスターの種族スキルを大幅強化できる。



 この効果により――。



〈種族スキル〉

 猫の王。素早さが230%上昇する。



 クラマルの種族スキルは、大幅に強化されている。



 今、素早さという一点に関していえば、この場ではクラマルに勝るモンスターが存在しない。



 そして高密度の命令式により、上昇した〈会心率〉と〈回避率〉。これが合わさる事でクラマルは、ほぼ確実に相手の攻撃を避け、会心の一撃を叩き込める。




「…………は?」



 五秒すら掛からず、エイヴァのモンスターが全滅していた。「――――ッ」容赦なくクラマルは彼女の頭にも会心の一撃を叩き込む。



 頭が飛び散り、首は魔力で焼け焦げ血はあまり出ていない。ちょこんと地面に降り立つクラマルは彼女の手に付いた収納リングを前足で踏み潰し、モンスターを魂ごと殺した。




 残りはイライジャ、ただ一人。因みにマテオはエイヴァが呆気に取られている間に、頭もリングも潰し終えている。



「なんだ、これは……、なんなんだッ!」



 イライジャが狼狽え、そう叫び終わる時にはクラマルは攻撃を繰り出していた。



 ぐしゃり。頭が潰れ地面に転がるイライジャ。



 彼の指輪も先程同様に踏み潰すと、周囲にいた数体のモンスターは魂を砕かれてバタリと倒れる。




 先に魂を砕かれた事により、モンスターの肉体はそこに残り続けていた。しかしもう動く事はない。モンスターの意識は魂に宿るのだ。そして魂はクラマルが砕いてしまった。




「にゃ……」



 ぶるぶると体を震わせ、魔力で返り血を洗浄する。



「よくやった、クラマル」



 ショウが手を広げて、さぁ来いと待ち構える。クラマルはガバッと飛び上がり、彼の胸ではなく頭に抱き着いた。



「にゃ……」



 褒めて欲しいのかクラマルは、ショウの頭にスリスリと頬擦りしている。



 その様子に会場は――



「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」」」



 どうやらヒナタがジャスパーなのは聞き取れていたらしく、多くの人がショウを味方だと思い安堵し熱狂していた。




 既にカーネリアンの部下は恐れをなして逃げている。観客達は命が助かったと泣き崩れてる者も多いが、それ以上に圧倒的な戦いを見て感動していた。





「ははは……」




 ショウは歓声に圧倒されつつ、クラマルを引き剥がして抱き抱えていた。



――――――――


〈あとがき〉


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