第26話 何だこいつ
転校生、
それに対し、琴音はメッセージの一部をスクリーンショットで村井に転送。放課後にどうすべきか指示を仰ぐ。村井からは相手がどう出るか不明のため、放課後に合流するという回答が返って来た。それを受けてひとまず安心する琴音。彼女は友人たちという周囲の目の中に隠れながらその日を過ごすことになる。
そして迎えた放課後。
琴音は伊海に先に待ち合わせ場所に入るようにメッセージを送った後、花音と二人で帰路に就いてお互いの安全を確保する。そして帰宅後に村井と軽く話をして二人で伊海と相対することを決め、玄関に向かった。
「……絶対、二人とも無事に帰って来てね」
玄関で一人留守番を言いつけられた花音が心配そうに二人を見送る。対する琴音は花音に優しく言った。
「花音こそ家から出ちゃダメだよ? いい子に留守番しててね?」
「うん。私、いい子にしてる。だから絶対帰って来てね」
「任せて。ね、お兄さん?」
「最悪、琴音だけは逃がすから安心しておけ。俺の方はまぁ、不意打ちで問答無用に殺されるとかでもなければ何とでもなる」
「ちゃんと二人とも無事に帰って来て。お願い」
琴音の確認に余計な一文を付け加えた村井に花音は真剣に頼む。少しでも花音の気を軽くしようと思っての発言だったが、どうやら村井が思っていたような効果を発揮することは出来なかったらしい。村井は軽く謝りながら花音の頭を撫でる。
「悪かった。ちゃんと二人とも無事に帰って来れるように努力するよ」
「約束」
「じゃあ、行ってくる」
心配する花音を置いて二人は伊海との待ち合わせ場所に向かう。少し急ぎ目の歩行だ。花音だけ置いて伊海に会いに行くことに対して花音から抵抗されたため、説得にそれなりに時間がかかって待ち合わせまでの時間が押している。
琴音は緊張の所為か、いつも目立たないように使っている隠形を今日はいつもより強めに用いて移動していた。隣を歩く村井は特に普段と変わりない。ただ、歩行速度だけが軽い競歩のような速度になっていた。そんな中、二人は情報共有を行う。
「で、着く前までにもう少し確認したいんだが……相手はどんな奴だった?」
「……何か、いや~な感じの人です。何か、ホント……例えるなら諸角さんみたいな感じの視線を向けて来るんです」
「……そうなのか」
「はい。とても花音には会わせられません。絶対エッチなこと考えてます」
身を守る様に自分の身体を抱いた琴音。そんな琴音の言葉に村井は彼女を少し見て考えてしまう。
(……それは年頃の少年なら多少は仕方ない気もするが……流石に諸角クラスの性欲をぶつけて来るとなれば話は別になるが、同年代の男子が琴音を見たら、ねぇ?)
非常に優れた容姿の上、中学三年生の現時点で既にG65という存在感のあるお山を持っている琴音。優しげな容貌に小柄ながら抜群のスタイルを誇っている彼女に気を持ってしまうのは仕方のないことだろうと村井は思ってしまう。そんな村井の視線に気づいたのか琴音が複雑な面持ちで言った。
「……お兄さんまでやらしい目を向けないでください。今は困ります」
村井としては自分がどうこうという意味で視線を向けたつもりはなかったが、受け取り側からすればやった側の意識など関係ない。取り敢えず悪いことをしてしまったと感じた村井は謝った。
「ごめんな」
「はい……そういうのは、その。帰ってからにしてください」
耳まで赤くして琴音は消え入りそうな声で村井にお願いして来た。しかし、村井はノーリアクションで歩を進めた。琴音は自分の発言内容と村井の反応との間に色々と思うところはあったが再度言い直す程の勇気もなかったので無言で先を急ぐ。
学校方面に五分ほど歩いた後、学校とも家とも別方向に十分ほど移動したところにあるファミリーレストランが今回の目的地だ。二人は並んで店に入ると琴音のスマホに来た伊海からの連絡通りの席に向かう。
そして相対する村井と伊海。好戦的な視線を向けて来た伊海だったが、次の瞬間には何故かきょとんとした表情になって尋ねて来た。
「え? 誰?」
「……? 私と一緒に暮らしてるお兄さんだよ。あの変な本のこととかお金のことは知ってるのに、お兄さんのことは知らないの?」
「いや、同居人がいるのは知ってるけど、思ってたより何かダサい……」
「何だこいつ……」
偽らざる本音が思わず村井の口からこぼれ出た。怒るというより呆れた村井だが、隣にいる琴音がカチンと来たようだ。
「伊海君、初対面の人にいきなりそう言うのはちょっとどうかと思うな」
「え、いや、でも、全然かっこよくないし……」
「……は? どんな人を想像してたのか知らないけど、私のお兄さんをバカにしないでくれる?」
いつもは優しい琴音が珍しく怒っていた。いつもは優しい色を纏っている大きな瞳は光が消えかかっており、聞き心地の良い声はいつもより低いものに変わっている。そんな琴音の明確な変化に伊海も流石に気付く。不機嫌どころではない琴音の機嫌を何とか取るべく、彼は慌てて取り繕った。
「や、やだな。琴音ちゃんにはそういうの似合わないよ」
「勝手に名前で呼ばないでほしいな。凄い嫌だから」
「え、えぇ……?」
何か話と違うなと呟きながら伊海は村井に助けを求めるような視線を向けた。怒る琴音に対して伊海がどんな反応を見せるのかを観察していた村井だったが、伊海が目を向けたことで視線がぶつかる。
しばしの無言。だが、立っていても埒が明かないと琴音は村井にだけ普段の表情を見せてから先に席に着くように促した。村井も特に拒否することなく座るが、琴音はいつもより距離を詰めて席に着き、その後は黙って伊海を睨みつけていた。
更に無言の時が流れるが、先に根負けしたのは伊海の方だった。彼は両手を挙げて降参のポーズをとると苦笑しながら琴音に謝る。
「ごめんごめん。聞いてた話だと、同居してる人は凄いイケメンって話だったから。緊張してたのに拍子抜けしたんだよ」
「……お兄さん、どうする?」
村井の腕を引き、村井に顔を寄せて彼の耳元でもう話し合いじゃなくて尋問で話をさせる方向でいいんじゃない? と大分過激なことを囁く琴音。流石にそこまでするのはどうかと思った村井は溜息を吐いた。
「……取り敢えず、話があるんだろ? さっさと用件を言ってくれ」
「あ~……そういう態度取るんですね。ならこっちも相応の態度で話進めますよ?」
(さっきから舐めてるなこのガキ……ボコって床舐めさせてやろうか?)
荒事の世界に長く居た村井は一瞬で琴音より物騒なことを考えた。だが、実行には移さずに黙って冷たい視線を向ける。二人揃って白眼視だ。しかし伊海の余裕は何故か崩れない。それどころか自信満々に切り出してきた。
「いいんですか? 全部を知っててこの世界に来た転移者さん?」
「……? 何の話だ?」
本当に何のことかわからずに思わず冷たい視線を止めて首を傾げる村井。そんな彼に伊海は余裕たっぷりに答えた。
「あー、言ったらマズかったですよね? やっぱり。そういう態度になるってことは二人には言ってないんでしょ? あなたが別世界から彼女たちの物語、【昏き幽王の眠る町】のことを知った上で光源氏計画を組みに来た転移者だってことを」
そう言って勝ち誇るような笑みを浮かべる伊海。それに対する村井の答えは。
「いや、だから。何の話だ?」
心の底からの疑問だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます