第6話 同居開始

 昨日は美少女姉妹と共に眠りに就いた村井だったが、翌朝となる今日は一人だけ先に起きて動き出した。


「はぁ……ちょっとでも読んでおかないとな」


 寝る前の姉妹の拘束はそれなりに強かったが、流石に寝ている時は弱い。村井は二人を起こさないように慎重にベッドから出ようとする。


「ん……?」


 しかし、それは出来ない相談のようだった。琴音の方は僅かに離れて寝ていたが、花音の方は拘束こそしていないもののしっかり抱っこされるように寝ていたようで、村井が動いたらすぐに目を覚ましたのだ。


「……おはよう」

「うん。何時?」

「……七時だな。俺はもう起きるが」

「じゃあ私も。おねーちゃん、朝。行くよ」


 結局、花音が琴音を起こしたことで三人揃って朝の身支度を整えることになった。



 朝食後。朝のトイレなどで一悶着あった後に迎えた穏やかな時間。村井は早速二人に対して切り出した。


「さて、今日からしばらく君たちはここに住むことになる。自己紹介すらまだだったから今日は少し話をしようか」

「……しばらくなの? ずっとじゃなくて」

「か、花音。ごめんなさい。ちゃんと自立してお金返せるように頑張ります」


 膝の上で不満を示す花音と村井の隣で恐縮しっ放しの琴音。村井は微妙な顔をして琴音の気が軽くなるように言った。


「いや、まぁ。別に修行とか仕事とか家事とかするなら居てもいいんだが……」

「わかった。がんばる」

「え……」


 素直にここに残るように頑張ると宣言した花音にどうしたの? と言わんばかりの目を向ける琴音。正直、村井も琴音に同感だった。


「……何か変わった子だな。普通は知らない人と一緒に暮らすとか嫌がるだろうに」

「知らない人は嫌。おにーさんは別」

「……よく分からんが、まぁいい。本題に戻ろう。自己紹介からだな。俺は村井 心哉。君たちが義務教育を終わるくらいまでの面倒を看ようと思ってたが……まぁ、成り行きに任せるよ。よろしく」


 花音を見下ろしながらそう告げる村井だが、その視線の先にいた花音が村井と視線が合ったと見るや間髪入れずに問いかけて来た。


「何歳?」

「……二十六」

「私の倍より……でも大丈夫。あ、好きな人とか、いる?」

「……今はいない」


(……何でこの子は俺に興味津々なんだ?)


 思ったより深掘りされて村井は困惑する。普通、こういう場では遠慮して口数も減るものだと思っていたが、花音は村井についてあれこれ聞いて来た。その様子に琴音も花音に訝し気な目を向けていた。


「好きな食べ物は甘い物とチーズかな、「じゃあ好きな」ちょっと待った。その他の詳しいことは追々話すから先に君たちの自己紹介をしてほしいかな」

「……分かった。お姉ちゃん」

「……花音」

「なに?」


 心配そうな目を向けるも村井の前だから言えないのか黙ってしまう琴音。しかし、自己紹介はきちんとするつもりのようだ。意志の強い目で村井を見て告げる。


「一色 琴音、十三歳です。白根中に通ってます。部活はバトン、バトントワリングです。趣味は、お菓子作りです。そんなに毎日作るとかはしないので、たまに花音とお兄さんに食べてもらいたいです。お願いします」


 趣味を続けるためにちょっとした打算と共に自己紹介を終える琴音。村井はそれに気付きはしたが、別に子どもが趣味でお菓子作りをするくらいで目くじら立てるほど困窮している訳でもないので普通に聞き流して言った。


「はい。趣味は好きにやってもらっていいけど、部活は……どうしようかな」


 少し悩む素振りを見せる村井に琴音は慌てて言った。


「あっ、えっと、その……大丈夫です。我慢します。だから捨てないでください! 私、ここに居たいです!」

「んー。まぁ、そんなに簡単に放り投げるつもりはないけど、学校が家の近くの中学に変わるからそもそも部活も変わることになると思う。

 ただ、どの道部活は一旦止めておいた方がいいかな……君のキャパシティに余裕が出来たら別だけど」

「はい!」


 文句も言わずに村井に従う琴音。真面目そうな性格で苦労しそうだなと思いながらも、そもそも大概酷い目に遭っているという事実を思い出して村井は何とも言えない感じになって黙った。


 そんな中、村井の膝の上に座っていた花音が村井を見上げて口を開く。


「じゃあ、次、私」

「あ、あぁ。そうだな」

「うん。一色 花音。十二歳。白根小学校の六年生。好きなことはお昼寝。嫌いなのは嫌な人に近付かれたりすること。お兄さんはだいじょぶです。そう視えるので」


(……少し確認するか)


 花音の申告を聞いて違和感を覚えた村井が目に魔力を宿して視ると、花音は確かにその愛らしい瞳に魔力を宿していた。


(言われてみれば目に魔力が宿ってる。何かに目覚めてるな)


 取り敢えずは害のなさそうなものであるため、放置することにする村井。ただ、目が合うと花音は恥じらいの表情を浮かべた。


「ん……大丈夫だけど、変な感じで見ないで。恥ずかしい」

「あぁ……悪いな。何か害のあるものじゃないか気になった。大丈夫そうだ」

「心配してくれたの……? ありがとう。でも、小さい頃からぼんやりとだけど色々視えてたよ」

「……そうか。大変だったな」


 恐らく、常人とは違う世界が見えている。村井は生まれ持っての異能力者は普通を知らないため、普通に合わせるために苦労したんだろうなと直感的に思った。村井が思ったままにそう言って花音を労わると彼女は俯きながら頷いた。


「うん。お姉ちゃんしか信じてくれなかった。でも、お姉ちゃんも今は大変だから、私、がんばる」

「だ、大丈夫だよ花音。私のことなら心配しないで」

「むり。おにーさん、お姉ちゃんはとってもがんばりやさんだから無理させないで。お願いします」

「花音……でも、お兄さんはお金払ってるから……」


 悲しげな表情でそう告げる琴音。互いに自分を犠牲にしてでも片方を守ろうとする姉妹愛を前にして村井は人買い商人にでもなったかのような気分にさせられた。


「……別に金払ったは払ったけど二人に無理は……」


 そこまで言って村井は二人を昏き幽王の復活阻止のために引き取った時点で無理をさせないというのは嘘だなぁと思ってしまった。その間に琴音が覚悟を決める。


「……あの、三億円です、よね? 私にそんな価値があるとは思えませんけど、私、がんばりますから、どうか花音だけは……」

「大丈夫。私もがんばる」

「花音、気持ちだけで十分だから」


 再び姉妹愛を発露させようとする二人を遮って村井は告げる。


「……まぁ、なんだ。取り敢えず俺の話を聞いてから……うーん、それもなぁ。俺もこの本を読んでからじゃないと何とも言い難いんだよ。その辺の処遇については別途話すか」


 明らかに何らかの無理を今すぐにしようとしている琴音と何かよく分からないが妙に前向きな花音を見ながら村井がそう言うと花音は頷いた。それを見て琴音も明らかに心残りがありそうな陰のある顔で頷く。


「じゃあ……そろそろ本を読みたいし、二人も二人だけで話したいことがあるだろうから。花音、降りようか?」


 抱きかかえるようにしていた花音を見下ろしながら村井は彼女に離れるように促すが、花音はくるりと体勢を入れ替えて村井に抱き着いてぽつりと言った。


「こわい」

「……家の中は安全だから」

「いや」

「か、花音。お兄さんの言う通りにしないと。捨てられちゃうよ」


 普通の女の子であれば考えられない程、アラサーのおっさんから頑として離れようとしない花音。琴音が強情な妹の服を軽く引っ張りながら注意しても彼女はそこから離れようとしない。まるでそこが定位置のつもりのようだ。


(何か変なところ触るとアレだから俺からはちょっと触れないし、姉の方に頑張ってもらうしかないんだが……)


 しばらく琴音に任せることにする村井。しかし、琴音が花音を説得しながら彼女を引っ張れば引っ張るほど花音は村井から離れないように村井に強く抱き着く。そんな彼女としばらく小競り合いをしたが、やがて二人は揃って根負けした。


(共同生活が決まった以上、今日中に食料品以外にも色々と生活用品とかを買わないといけないからな……時間がもったいない。仕方ないか)


「……わかった。百歩譲って一緒にいるのはいい。ただ、本を読ませてくれ」

「うん」

「多分、怖い本だから間違えても読まないようにしてくれよ」

「わかった。おやすみ」

「え?」


 村井の返事を待たずして花音は村井の胸より少し上辺りに顔を埋めて目を閉じた。それを受けて村井は困りながら琴音を見る。


「……悪いけど、俺が昨日持ち歩いていた鞄から【昏き幽王の眠る町】っていう本の上巻……いや、もう全巻持って来てくれないか?」

「あ、はい。あの、お兄さんが本を読んでる間、私は何をすれば……」

「そうだな。君らのベッドとか家具とかはネットで買うつもりだから適当に充電中のタブレットを使ってウィンドウショッピングでもしててくれ」


 ショップ店員からスマートフォンと一緒に押し売りされたタブレット端末を示して村井は琴音に指示を出す。すると彼女は恐る恐る答えた。


「……あの、買ってくれるんですか?」

「必要だろ? 安心しろ。服とか、雑貨とかも買ってやる。あ、そう言えば昨日から一回も行ってないけど、二階の空き部屋を二人に一つずつ貸す予定だからそこに入るサイズにしてくれ」

「花音の分は……」

「……要ると思ったら自分で選ぶ。しばらくはおにーさんと一緒」


 異様なまでに懐かれて懐疑的な目を向けてしまう村井だが、琴音の方が花音を心配していた。ただ、現状どうする手立てもないので琴音は大人しく自分の部屋になるという空き部屋に行ってタブレットの測定アプリを使って色々と測ることにする。


「じゃあ、タブレットはお借りします。本は机の上に置いておくので」

「おう。さて、読むか。花音は見ないようにな」

「うん……」


 既に眠りの園に半分くらい旅立っている花音を抱えながら村井もやるべきことに精を出すのだった。



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