第12話|学園祭ライブの行方
「点灯テスト──いきます!」
体育館の天井近くで、スポットライトが点滅した。
赤、青、緑。リズムに合わせて明滅する光が、無人のステージに花を咲かせる。
……のはずだった。
「……おかしい。タイミングがずれてる」
葵の眉がぴくりと動いた。
AI制御による照明同期システムは、今回の学園祭ライブの目玉だった。
スマホの音楽アプリと連動し、曲のBPM(テンポ)と音のピークをリアルタイムで解析、
光と映像を合わせてダイナミックに演出する──はずだった。
けれど、リハーサル直前になって、制御AIの挙動が不安定になりはじめた。
「……AIの判断、遅れてる。遅延が0.7秒ある」
「たった0.7秒でも、光が遅れたらズレが目立つ」
「リカバリー可能?」
「コード、見直すしかない……でも、あと2時間」
部室に緊張が走る。
「葵、代替プランはある?」
春樹が問う。
「手動同期。でも、それだとライブ感が死ぬ」
葵が即答する。
芽衣が心配そうに言う。
「AIって、すごいのに。
どうして、こういうときに限って……」
勇人が笑って言った。
「だから面白いんだよ。完璧じゃないから、工夫する余地がある」
咲良がそっと言う。
「信頼って、“うまくいく前提”じゃなくて、
“ダメになっても、一緒に立て直せる”ってことなんじゃないかな」
葵はしばらく沈黙し──静かにうなずいた。
「わかった。AIは補助に回す。
リアルタイムで私が演算サポートする。
一部自動、一部手動──ハイブリッド制御でいく」
夕方、体育館。
観客席が埋まり、ざわめきが空気を満たしていく。
「いよいよだね」
芽衣が、袖で手を握りしめている。
「見せてやろうぜ、AIと“人力”のコラボってやつを!」
勇人が笑う。
バンドの演奏が始まる。ギターがかき鳴らされ、ベースが地響きをつくる。
1小節目──
光が走る。
2小節目──
映像が揺れる。
3小節目──
観客の歓声が、ステージに重なる。
そして……葵のタイピングが始まった。
キーボードを打つ手は、音を聴きながら、AIのラグを修正する。
ミリ秒単位の操作が、曲と光を“つなぐ”。
汗が額を伝い、目はディスプレイに釘付け。
だけど、心は音と、空気と、仲間たちの声に重なっていた。
春樹が、そっとイヤモニ越しに言う。
「大丈夫、君なら、できるよ」
その一言が、何よりの“コード”だった。
アンコールのあと、照明がゆっくりと落ちる。
静寂の中、客席から拍手が湧き上がった。
まるで、光と音が“届いた”ことへの答えのように。
舞台裏で、葵が椅子に崩れ落ちた。
「しんど……かった……!」
「でも、やりきったよ」
咲良が手を伸ばす。
「完璧じゃなかったかもしれない。でも、
完璧じゃないからこそ、ちゃんと“心に届いた”んだと思う」
葵は少しだけ、照れくさそうに笑った。
✦ aftersync:ひとつになる、その瞬間
AIはリズムを読み取る。
人は、空気を読む。
どちらも、ひとつの演奏だ。
完璧に重なるより、
手を伸ばし合う“瞬間”の方が、ずっと美しい。
信頼とは、誤差を許すことではない。
一緒に揃えていく、その過程を信じることだ。
だからこの光は、まっすぐ届いた。
不完全だからこそ、本当の意味で“響いた”。
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