第47話 おまえは俺の……ッ!

「さあ、銃を捨てなさいユーミちゃん」


ハンドガンと比べたら圧倒的投射力を持つ小銃二挺の優越感に口端をニヤリ笑ませながらのたまう。


カツーン、とユーミちゃんが銃を落とした。


「そう。良い子ね……じゃあテープを渡すから…えっ?」


隣のジュリアンもガシャリと小銃を落とした。


え?ガスとか気体分子や電磁的な攻撃を受けてんの?!


でもエアコンディショナルセンサーやフィジカルモニターからは何のアラートも出てない。


あーしは後退りながら視線と銃口を一緒に動かしそれぞれの顔を確認する。


ジュリアンがマジ顔でユーミちゃんを凝視し、ユーミちゃんはほのかにほほを染め俯きつつもチラチラとジュリアンを見つめていた。


ファイ子は……落ちた拳銃を拾って銃口等を覗いていた。


「ユーミ、お前……やはり女だったのか」


「なっ、何よ……だったらなんだって言うの」


ジュリアンはツカツカとユーミへ歩むとその小さく華奢な手を掴み寄せる。


「俺は、俺はずっとお前に……!」


成人男性を風船人形の様にハタき散らす(検体:クロード大尉・推定180センチ85キロ)ユーミはされるがまま腕を掴ませ視線を床やあちこちへとさ迷わせ後退りをつづけ……うまうまと壁ドン体勢へと移行しおった!


「俺はずっと言いたかったんだ、お前の家族を!……いや、償わせてくれ」


「えっ?」


壁ドンを受け入れながらも顔を逸らせていたユーミちゃんは、初めてジュリアンを見上げた。


「俺がお前の新しい家族になる、なってやる!……いや、成らせてくれ。結婚しよう、ユーミ」



はぁあああああ?!



「恨んでいた、恨んでいたんだよ俺は。お前は俺の……全てを奪いやがった。許せなかった、先に奪っておきながらも…そう、俺はおまえの家族を奪ったあの作戦も、ただ気まずいだけの過去の汚点の一つとしか思わなかったクセに、友を……女を討たれる度にやるせない憎しみが炎の様に燃え上がった!同時にお前の家族を殺したことへの後ろめたさ、罪悪感……そう、俺に向ける憎しみを想像し肥大してゆく恐怖。それを塗りつぶす為にお前を恨んだ、憎み恨んで追いかけた!ユーミ、お前は俺の、俺の全てを……!」


ジュリアンの、ただ一方的に自分のコトだけを長々と吐露するだけのダメダメな告白を遮るように、ユーミがジュリアンの首を抱きその薄い唇へと吸い付く。


ああ、それ今あたしのなのに……でも唇を会わせた二人は、まるで美を計算され尽くした彫像のように美しくて、あたしは悔しさをただ涙として滲ませるのみで視線を床へと落とすしかなかった。


「ゾラ…泣いてるのか?」


新キャラファイ子くんがあーしを気遣うように頭を撫でてくれる。


「うん、ありがと。二人を邪魔しちゃ悪いから、あーしらは一緒に帰ろ?」


「うん、わかった。ファイ子は帰る、ゾラと一緒だ!」


ええ?頭弱いのかこやつ……まぁいいや。

話し相手にして勝手になぐさまろ。


あーしはファイ子の手を引き、マサーンへと向かう。とくに減圧も感じなく、漏れだしてゆくエアに押されるようにあたしらはマサーンにたどり着き、予想通りというか影も形もなく消えていたナリスと、そこらじゅうに山と積み重なっているリジェクターの瓦礫に安堵を感じつつハッチを開けた状態でぼったちしてるマサーンへと乗り込んだ。


シートの横にサブシートを広げ、そこにファイ子を掛けさせる。


ハッチを閉じると、そこで初めて今まで薄いエアのなかに居たのだなと、加圧と酸素の濃さに実感を得る。


「参謀本部へ…こちらゾラ、作戦目標にたどり着くも強力な抵抗に後退を余儀なくされ目標の奪取はかなわ……あれ?」


ファイ子に視線を向けると、ヤツもあーしを見返してのたまう。


「なんだ?ファイ子もリーゼの操縦なら得意だ。やってやろうか?」


「謹んで遠慮申し上げる」


なんなんだこの女・・・つーかコレが目標だったのでは?


『こちら本部、参謀部付きオペレータだ。ゾラ少尉、ゲルバルト座標軸でほぼ同位置に目標の反応がある。制圧され脅迫により本部への侵入を試みるつもりか?』


「え?いや、だったとしたら今殺されちゃうじゃん!となりのヤツに丸聞こえなんだからもっと小声で喋るとかしてよ!」


『ヘッドギアはどうした、まさか拡張感覚の支援を受けずに帰還を試みる気ではあるまいな。外は激戦だぞ』


「え?緒戦は圧倒的だったのにまーだ戦ってんの?」


『バショク大佐が討ち死にされた。ヴェーダの総帥ブルーレットと共に……いや、それはこちらの話だ。ゾラ少尉、ナンデデスを脱出しなんとしてでも旗艦ヌアザへと目標を届けよ』


「はあ?旗艦はダグザっしょ?」


『今はヌアザだ。以上通信を終わる』




・・・えーやだぁめっちゃめんどくさい・・・


つーかあーしってヴァナディースのシーなんだからフツーのダナンの指揮下に戻んなくてよくない?



「あー、この全休モニタだけじゃ不安だな~」


球面のスクリーンなんだけど、いちおう二眼ステレオで遠近がわかるようにパイロットの視線を軸に二つの映写角を絶えず高速で切り替えている。


「なんだ、ファイ子は拡張感覚の支援が無くてもリーゼを上手に動かせるぞ」


「あーそ、じゃあやってみなよ。難しくて泣いちゃってもしらないんだから」


なんかあーしの精神も引きずられて幼児化してる気がする。


「ファイ子が泣くのはユーミと別れるときとお菓子を落とした時だけだっ!」


いきなりマサーンがガクリと揺れ、あたしのコントロールを離れて加速する。


「ひあっ!なに?!どーなってんの?!??」


「すごい!この機体、今までファイ子が乗ったどの機体より凄い動く!!」



視界はあっつーまに真っ暗のソラへと切り替わり、そして星の川と爆炎の中を踊るように泳ぎ始めるのだった。





「ははははは!楽しい!敵はどこだっ、全部叩き落してやる!」


「えー、この機体の敵味方識別ってあんたにとっちゃ逆になんじゃないの?」


「そうなのか?じゃあ味方を撃てばいいのか?」


「いや、ロックオン出来ないから・・・まぁ、マニュアルエイムならトリガーは引けるけど、やめてよ。あたしが怒られるでしょ」


「そうか・・・つまんない。じゃあゾラに返す」



負荷が抜けてグラグラだったMTDが突然全機能を復活し、リーゼの四肢と全身の感覚が重さとなって返ってくる。



はぁ、先ずはブリギットに帰艦かなぁ・・・




なんとなく飛来する重粒子砲の火箭を避けながら、ふらふらと母艦を探すのであった。



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