第43話 新しい部下と色々

「よう、あんたが新しい隊長さんかい」


「ええ?!あんた眉毛は!?」


ニナイ御姉様の前だというのに上げてしまった喫驚。

全ては目前の男の風体……はダナーンズの制服だったわ、その顔の所為であった。


浅黒い肌に眉なしの三白眼。

一見細いが張チ切れんばかりに膨らんでいる肩……ああ、ジムで丸い玉ばっかパカパカ殴ってるとあんな肩になっちゃうのよね……に長距離選手のように引き締まった両足。


「ん?眉なんざ殴り合いしてりゃ無くなっちまうもんなんだよお嬢ちゃん」


……え?パンチを貰いまくってるってことよね?


「……喧嘩する相手を選らばないってこと?」


男は片口端だけでニヤリ笑むと、答えた。

コワッ!めっちゃ凶相!


「心配すんなよぅ、女と気に入らない上官は殴らねえ。消えてもらうだけさ」


消される、って……


めたくそにビビリ上がって顔ごと視線をそらせてしまう。


そらした先にはニナイ様の顔があった。


「前の上官、ヌアザ……いえ、ダグザかしら?まあどっちも同型艦だしどうでもいいわね、其方で指揮を取っていたドミニカン小佐を文字通り消し飛ばしたのよ、敵の射撃を艦橋に誘導して・・・ね」


なぜかウキウキとした明るい声で饒舌に語った御姉様。


「部下殺しと上官殺し。お似合いのカップリングじゃない?」


え?部下殺し?……あ、やつらか。


「参長閣下、お言葉ですが…」


あーしの声に被せるように男が声を張り上げる。


「ありゃあ事故だ。第一、防空圏内に入りゃあとはリーゼの仕事じゃねえ、母艦のシールドと対空能力の責任だ」


なに勝手に庇ってくれちゃってんの?て誤解したら只単にテメェのヤラカシの言い訳でしたわwww


「ザザン、この船では政治的なおためごかしは要らないわ」


「ヘン、そっちにゃ要らなくたって此方にゃ重要なんだよ」


「あなたには価値が有るのよ。つまり、この船に居る限りは好きにしろってコト」


「チッ、喰えねえ……狐みたいな女だぜ」


二人は見つめあったまま、フヒヒオホホと笑い始めた。


……もう結婚してくれ、てか帰っていいかな。


「ゾラ。あなたには新たに重巡洋艦のミアーハを任せるわ。ブリギットと艦隊を組み、来る決戦に備えなさい」


「ハッ!鋭意任務に邁進致します」


「フン、精々この男を使ってみることね。行け」


「ハッ」


二人で部屋を出る。


「あー、緊張した」


「なあんだぁ?凶状持ちのクセに何小心ぶってやがんだよぉ」


頭上から掛けられた声を見上げる。


「はー、あんたもデカイのね。あたしは小心者よ。あんたが大物か只のバカかは知んないけど、どっちにしたって自由にやるだけなんでしょ?」


「フン、ガキにしちゃあ解ってんじゃねえか」


「男って女の言うことなんか聞かないからね」


ザザンは訝しげに無い眉をしかめ、あーしを見下ろして言った。


「なんだ、そんなナリでもう男を経験済みなのかよ?ホント女はわかんねえな」


「へえ、ビッチだなんだって蔑まないんだ」


「女の生き方にアレコレ言うヤツは童貞とヘタレだけさ。話がねえなら行くぜ」


「うーん……これは取引なんさけど、形だけでいいからあーしを上官として立ててくれるならミアーハとその戦隊を貴方で好きにしていいわ。どう?」


「ミアーハを?あっちが重巡だろ、戦隊長サマは駆逐艦でいいってのか?」


「船がでっかいからって寝てられるワケじゃないし、ブリッジごと撃たれたくないからね。あんたのお舟だ、ってんならちょっとは大事にしようって思わない?」


「あっちのキャプテンはどーすんだよ、佐官じゃねーのか」


「ミアーハ中心の戦力を二番隊として、コマンドのプライオリティをあんたで話つけとくわ。艦長のガッキー……古垣小佐とはいちお顔合わせとく?」


「イユか!」


「え?知り合いなの?意外~」


イエローの美女なのに。

奴等ってマジ化粧しなくても眉も睫毛も濃いしずっと童顔だしでホント反則種族だよ。


「……まぁヤツとなら問題は起こさねえよ」



なんか突然イキりオーラが消えてしまい、ザザンはそのまま歩み去っていった。




……うーん、美女と野獣って感じでちょっと気になるけど……エアコムの着信を見る。


(俺だ、ジュリアンだ。昨日のワンピース、白は無いのか?サンダルと合わせて部屋に来て欲しい)



…しょーがねーな、って愛しさがじんわりとこみ上げる。


あーしはあーしで忙しいし、ね。



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