第31話  二回目からは有料

「えーっと・・・まあ、そこは男と女のハナシだ。辛い、たって諦めるしかねえよ」


「ふふ、ごめんなさい。縋るように嘆いてしまいました」


涙を指で拭いつつ、頭を撫でてくれた男性に微笑みを返す。

・・・お?なんか調子出てきたかも!


「はは、こんなときゃ男はなんも言えねえがよ。ゲツを男にしてくれた、てんならもう身内みたいな・・・いや、敵に身内はねえやな!」


二人で笑ってしまう。

泣き、笑い合った親愛という差別感情によって、敵と味方という関係性だけで完結する現実の貧しさを滑稽に感じて。


彼が去った後、その貧しい、薄ら寒いだけの生と死という現実のみが終始を司る、どう仕様もなく巨大で重い機械的な戦争という機構ギミックがこの身へと戻ってくるのを感じた。


一瞬で心が静まる。

そう、これが私の生き方。

私の全てでパピプッペポ様のお力になる。


生存と快楽のため手当たり次第に何でもかんでも触手を伸ばし絡みつき放り込んでくる心という糞袋には、静謐という二字だけが入っていればいいんだ。



「・・・ここにいたのか、おいゾラ!部屋に来いよ。さっきの続きをしようぜ」


突然現れたゲツの顔に、胸が跳ねる。

でも続き・・・って、アレ?!何時間シてたと思ってんだこの猿。


「ええ?!あんたまだヤんのぉ?・・・まぁいいけど」


拒絶の喫驚を上げかけてしまったけど、体はいいみたい・・・発情してる。


「あんだよ、最初みたいにもっと恥じらえって」


「バーカ、あんなん毎回できるわけないしょ、二回目から有料だっつーの」


あーしらは罵倒だかなんだかわからん掛け合いをしながらゲツの部屋に戻り再び絡み合うのだった。





・・・・・あれっ?












そんなこんなでゲツとラブラブにベッタベタしながら最終日を迎えたあたしは今もゲツと二人バカップルぶりを満喫していた。


「あたし、こんな気持ちのままブリギットになんて帰れない……」


「いくなよ、ゾラ。お前は俺が守ってやるさ」


「ゲツ……うれしい……!」


ガバー!と、独りでする妄想を二人で味わうこの性の甘さしかない異常な空間に只ひたすらに耽溺し合っていた。


そんなあーしの弛緩した腕が、強い力で捕まれる。


「ゾラ!まだこんなトコにいたの?!」


光る流体金属のように光を煌めかせるプラチナブロンドと赤いひとみが視界に飛び込んでくる。


「ユーミ?あんた、なにそんなテンパってんの?」


「さっさと行くわよ、あなたの船に!」


は?あなたの……ってブリギットに?


「え?あんたも??」


何言ってんだこの女……


「おいユーミ、ゾラはもう」


そうだ、今こそゲツの甲斐性を試す時よね。

あたしはユーミの手を振りほどくとゲツの後ろへと隠れる。


「ゲツ、この女の人怖い……守って!」


「はは、ヨシ!まかせろって」


ゲツは余裕の笑いと共にユーミを振り替えると、張った布を叩くような数回の破裂音と共に床へと崩れ落ちた。


えー何コレ……いや、きゃあ!

とか叫んで胸とかほっぺたとか押さえたりするべき?見せたい男は倒れてんのに?


いやいや、未だ意識はあるかもしれんやろ。


有無を言わさずあーしの腕を引き引き、恐らくは格納庫か更衣室へと急ぐユーミに引き摺られながら叫んだ。


「いやっ!、そんな……ゲツ!ゲツぅううううッ!」


ゲツの姿が曲がり角に消えるとユーミを向き言った。


「あんたどーしたの?ここはホームでしょ?」


「男の人なんてフケツです!」


は?


いや、あたしら女に比べたら……いやいや、違うっしょ。


「そりゃ、だらしなかったり無頓着だったりするけどさ」


まなじりを決し前を見続けるユーミの冷たい横顔に語りかける。

……あ、ダメだコレ全然届かないわ。


更衣室のドアを開き、立ち並ぶロッカーの前を抜け、そのまま部屋を抜け格納庫のパイロット、リーゼレータ搭乗通路へと出てしまう。


「え?ちょっと、スーツは?」


「そんなの、要りません!」


「はあ?!拡張感覚の支援なしで……前大戦の英雄にでもなったつもり?!」


スーツとヘッドギアによる拡張感覚の支援なしでリーゼをドライブするなんて……昆虫並みの視界、単焦点の単眼だけの知覚でトラップハウスへ飛び込むようなものじゃん!


あたしの腕を拘束したままずんずんと進み続けるユーミは、あたしが投降してきたランチの搭乗ラダーを素通りし、なんかトゲトゲした青と白の機体へと向かっている。


「へー、ツァイ……じゃないのか。もう二機も補充されてるのね」


二機並んだ其々の顔を見ながら、なんでリーゼに顔とかつけるんだろ、なんて益体もないことを考えていると、搭乗ラダーに金髪の男が寄りかかっているのに気付いた。


「あっ、クロード大尉……」


思わずイケ男とのあの甘い一時を思い出して惚けてしまう。


しかし大尉はあーしに視線のひとつも寄越さずシェードを外しユーミを向いて言った。


「ユーミ君、さっきはすまな……っ?!」


パコッ、ズドン!……と、手加減を忘れたプロレスラーが殴ったウォーターバッグのような音をたて、大尉の体が格納庫内の暗い何処かへと消えていった。


「ちょ、あなた……手加減って」


いや、こんなZero-G付近であんな音立てるなんてどんな速度で拳を打ち出せば可能なの?!


ユーミは目前に上げた細く繊細な下腕と両手を眺め、憂うような声音を吐いた。


「こんな細腕で……男の人に手加減なんて出来ません!」



……逆らうのは危険すぎる、あーしはユーミの脅威度を最大値へと設定し直すのだった。






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