第27話 ゲツ少年

「俺は許せないんだよ、おまえらのその”仕方ありませんでした”ってツラが・・・ヒトの家族を殺しておきながら関係ないねっていうそのツラがなあ!」


目の前でゲツ少年がわめいている。


あたしが1☆歳、コイツが16,7?年上じゃん。


「別に構わないわ」


勝手に自分の口が開く。


「なんだと?!」


「あんた、あの戦闘機・・・液体燃料のロケット推進機のヤツでしょ?もう殺し合ってるじゃない。許す許さないも既にあたしとあなたの命次第でしょ」


「ちっ、お前らには人の心ってものが無いのかよ?!いいか、ユーミの家族はなあ!」


「心なんて自分本位の言葉が詰まったクソ袋を、なぜ人間の証明であるかのように持ち出すの?」


同世代だからか、なぜか会話が弾んでしまう・・・


「自分本位?クソ袋だって?!心あればこそ他人を思いやり、仲間を、家族を大切に出来るんじゃないか!」


「だから大切にしたい、って思うのなんて自分に利益のある人間だけでしょ。唐突な例だけど、親が子供の将来を考えて彼是と指図するのは子供の暗い将来を耐えられないから。つまり自分の心の安息という利益の為。それを愛だ心だっていうなら、それも結局自分だけの都合が詰まったクソ袋じゃない」


「さすがダナーンズ、人を殺す為の理屈で洗脳済みってワケか」


「ダナンでこんな青臭い議論するわけないでしょ。座学はほとんど重力理論と実戦への応用、戦術教程がほとんどよ。心がどうこう、ってのは三千年前あたり文字が使われ始めたくらいに神学や哲学で書き残されてたやつの受け売りだって」


「人間は感情の動物なんだ、言葉なんかでグチグチ解説できるような単純なモノじゃないんだよ!」


「感情なんて生存の為の只の反射じゃない。じゃああたしも感情に従うわ」


「へっ、戦闘機械のダナンの女がどんな感情をみせてくれんだよ」


「感情なんて一つしかないわ。恐怖よ」


「なんだ、俺が怖くて逃げるのか」


「そう、怖ければね。そして、怖くなければ・・・」


あたしは立ち上がり、ゲツの顔に右手を伸ばす。

払おうと飛来するゲツの左手をこちらも同じく左手で掴み、全力で引っ張りながら背中下の左わき腹付近に右の素拳を打ち込んだ。


ゼロG格闘の基本、掴み、崩し、打つ。

もちろん格闘術とはいえ、女が男に勝てるような体術じゃない。

ただ、頭一つ分は違うがゲツとあたしの体格差じゃ無いのと同じだ。


ゲツは自分の名前と同じ悲鳴を上げ、床に倒れ悶えた。


「殴り、恫喝し・・・威圧する。怒りも恐怖の一変なんだって・・・初めの話じゃないけど罵倒と中傷、そして挑発が許されるのは自分より弱い人間にだけよ。よかったわね、あたしが虜の身で」


ゲツを見降ろしながら得意満面にドヤ顔で語った時、背後から大人の男性の声が掛けられた。


「ほほう、それでは私だとどうなるのかな?ゾラ少尉全権大使殿」


振り向くとそこには金髪のイケ男・・・クロードという大佐・・・ではなく大尉が入室してきたところだった。


「それは・・・やはりドンと壁に圧しつけられ、恐喝によりこの身の全てを差し出さねばならなくなるのでしょう」


千年前の電子文書に残る当世の風俗、壁ドンを連想しなんとなく顔が熱くなった。


「フフ、少尉は魅力的だが私はそこまで無粋ではないよ」


クロードは歩みを止めずそのままドリンクの販売機へ向かい、三つを取り出すと一つを私に、一つを床で座り込み、わき腹を抱えるゲツへと手渡した。


「お恥ずかしい、お気を使わせてしまいました」


別に自分の容姿に自信が無いわけじゃないけど、クロードはあたしからしたら完全にムリ目レベルの届かない男性だ。持ち上げられると照れる以上に寒々しい木枯らしが心を横切ってしまう・・・クソ袋の空模様。


「世辞ではない。・・・どうだね」


そういうと、座り込みながらこちらを睨み上げるゲツの視線にもかまわずクロードはわたしの髪を優しく撫ぜ、そのままアゴ先へと手を滑らせた。


え?マジで??


あたしはアゴを上げ、目を閉じる。


唇に男の体温が乗り、離れた。


目を開けると、美しく煌く碧眼があたしを捕えていた。


「部屋へ来て欲しい」


「はい・・・」



そのまま艦内のどこをどう歩いたのか、いつの間にか薄暗い男の部屋へと通され、後ろから抱きすくめられる。



「・・・フフ、素敵な男の人の部屋へ通され、後ろから抱きすくめられる。大尉は少女の夢をご存じなのですね」


何度もパピプッペポ様を相手に、見続けた夢。


「君が愛しくてたまらないだけだよ。それともありきたりすぎて白けたかな?」


後頭部からうなじに降りた男の鼻が、耳後ろからあたしの頬に来て止まった。


「・・・泣いているね」


緩んだ男の腕より抜け、あたしは自らの身を抱きしめながらクロードを振り返る。


「あたしの身は、既に醜悪な男性たちによって食い尽くされています。こんな不浄な・・・汚濁に塗れた体でも、抱いてくださいますか」


涙で咽ぶ声は既に鼻に掛かり、甘くねだるような声音になっていた。


「言ったろ」


クロードは再びあたしを抱きしめ、続けた。


「キミは魅力的だよ」


口を吸われ、ソファへと押し倒された。

・・・まぁそのフランスパンみたいな膨らみを見りゃわかるけどね?ソファ汚すの不味くない?

ナリスとライアンの臭い消すまでキッツかったんだよな・・・


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