第9話 バラエティ
田中と堀口は、会議室の片隅で静かに話していた。
堀口がファイルを開き、顔をしかめる。
「この件、進展がないように見えるが、やっぱりあの自殺事件と絡んでいる可能性が高い。社内の状況からして、何か隠してる奴がいる。」
「あの事件、ずっと追ってるんですね。
私としては、東堂さんがどう動くかに注目してますけど、あの才能と行動力、かなり興味深いですね。」
田中は冷静に頷きながら、隣に置かれたタブレットを覗き込む。
「素直に惹かれてると言え。が、あの男は確かに興味深いな。」
堀口は一瞬目を細めていう。
「番組買いに来た」
そのとき、会議室の扉が音を立てて開き、入ってきた人物を見た瞬間、田中と堀口は息を呑む。
アキラが姿を現したのだ。部屋の空気が一変し、二人ともその存在感に圧倒された。
アキラが言葉を放ったその瞬間、誰もがすぐにその顔を認識する。
アキラ、誰もが知る大物ユーチューバー。
最近では実業家としてもその知名度を生かしメキメキと頭角を現している。
いわゆる大物である。
玲奈はその声に反応し、冷静さを保とうとしながらも、やや驚いた様子を隠せなかった。
彼女は改めてきちんと目線を合わせ、余所行きの言葉で応じる。
「アキラさん、あの、お越し頂き光栄です。えと、番組の件ですが、少しお時間をいただけますか?」
アキラはにこりと微笑み、軽く頷く。
彼は自分がこの場所の主であるかのように振る舞う。
番組枠の販売、その情報まだ社内でさえ公開してないのにどこから?
真帆は自分より若く、そして浮ついた雰囲気すらある男への警戒心を引き上げる。
堀口と田中は驚愕し、玲奈も動揺を隠せなかった。
アキラはその後、気さくに席に腰掛け、周囲を見渡す。
自分がすでにこの空間に溶け込んでいるかのような自然な振る舞い。
玲奈は少しの間、言葉を探すように黙っていたが、やがて応じた。
「さすがですね、アキラさん。やはり、想像以上にお詳しいようで。」
アキラはその言葉に満足げに微笑み、さらに続ける。
「今から君俺の専属ね。」
アキラはこの場が自らの空間であるかの様に振る舞う。
部屋の中心に立ち、周囲の視線を一手に引き寄せる。
それは王が命令を下すかのよう。
「さて、東堂社長のところへ案内してくれ。」
アキラは、玲奈に向かって軽く命じる。
えと、Inovex室長である真帆に助けを求めるかのように視線を向ける玲奈。
「案内してあげたら?あなた専属みたいだし。」
綺麗に放り投げる真帆。
その横で、堀口は静かに席を立ち、何も言わずにその場を離れる。
「じゃあ、頼んだぞ。」
アキラは玲奈に一言だけ告げると、先頭に立って会議室を後にした。
己がすべてを支配しているかのように軽やかに踊る。
「ちょ、ちょっと場所ご存じなんですか。」
「知らないけど、どうせ一番上でしょ?」
「行き方があるんです!誰でも簡単に社長に会えるわけじゃないんですからね。
案内しますからついてきてください。」
「へえ、さすが落ちぶれても大和テレビ社長だね。」
玲奈はその言葉にムッとしながらも従い、アキラと田中を引き連れて東堂の部屋へ向かう。
田中は冷静に二人の後ろに続きながらも、アキラの言動に内心少し驚きながらも、どこか興味を持っている様子を見せていた。
アキラの姿勢からは一切の迷いが感じられない。
自分がその場にいるのが必然である。そう信じ切っているかのように、東堂の元へと向かう。
そして王と王が対面する。
アキラがズカズカと東堂の部屋に足を踏み入れた瞬間、互いに強烈な存在感を放つ二人の視線がぶつかる。
「よく来たね。」
「使えそうだからさ。」
「買いに来たのか?」
「取り敢えず遊び場広げようかと思って。」
「なら、歓迎しよう。」
何?この二人?玲奈は東堂のいつもとは違う優しい、いや、いつも社長はとっても優しいのだけれど。でも、見たことないこんな表情。こんな、リラックス?した、東堂社長は見たことがない。
アキラはゆっくりと歩み寄り、軽く微笑んだ。
その目には、どこか計算された冷徹さが宿っている。
しかし、その冷静さの裏には、何か別の感情が潜んでいることを、東堂は感じ取る。
「まあ、こういう場所も悪くないな。」
アキラが窓から街並みを見下ろしながら言う。その言葉は軽く、だがその中に確信を滲ませる。
東堂は少し黙ってから、口元を緩めて応じる。
「君には相応しくないさ。」
「羨ましいの?」
アキラは少しだけ目を細め、にやりと笑う。
「いや、今は今でそれなりに気に入っているよ。」
東堂も少し笑いながら答える。
「ならいいじゃん。」
アキラは気安く受け応える。
「そうだな、で、どれだけ欲しいんだ?」
「うーん、転売は?」
「一応やめてくれるか、色々と面倒だ。」
「ならとりあえず毎日22:00からの枠を売れるだけ教えてよその中で選ぶから。」
アキラのその言葉に流石に眉を顰める東堂。
「足りるのか?」
「どっち?」
「どっちもだ。」
「どっちも大丈夫だよ、それにそっちも確認はするんでしょ?」
「当然だな。」
「なら、今日はパンフレット貰いに来ただけじゃん?」
どっちって何?なんであの二人通じてんの?
玲奈は田中のスーツの袖を引っ張る。
「恐らく資金とコンテンツではないかと思いますが、良く成立していますよね。」
田中も声を潜め玲奈に耳打ちする。
「なるほどな。」
確かにそうだと、東堂はアキラの言葉に相好を崩す。
「ああ、あとさこの子頂戴。」
玲奈を指差し言うアキラ。
「ああ、いいぞ。」
事もなげに即答する東堂。
玲奈は部屋の隅で静かに息を呑んでいた。
アキラに「今から君俺の専属ね」と言われ何とか辿り着いた東堂の元。
この後東堂社長に泣きつけば、東堂社長なら私を救い出してくれる。そう思っていたのに。
「いいぞ」と言われたその瞬間。玲奈の心の中で何かが音を立てて崩れ落ちるのを感じた。
捨てられた、見捨てられた、投げ捨てられた。
玲奈の心は絶望という名の深い深い谷底へと落ちていく。
その時、突然部屋の扉が開き、思いも寄らぬ人物が入ってくる。
「出来たぞー!」
新宮である。
朗らかに元気よく小学生が登校してきた時のような快活さで東堂が社長室に乗り込んでくる。
その姿に一遍の愛らしさもないがとにかく元気いっぱいだ。
玲奈はその光景に唖然とした。彼の無礼さに、またしても心が沈みそうになる。
アキラと東堂はその登場にまったく動じず、新宮を軽く見て一瞥をくれるだけだった。
「お前、なんだよ。」
アキラはぼそっとつぶやく。
「おん?お前アキラってのか?何してんだこんなとこでお前。此処は一応あれだぞ大きな会社の社長室だぞ?お前みたいな無職に毛が生えたのがほろほろ迷い込んじゃダメなんだぞ?まったくガバナンスってのがあれだな我が社は。確りしろよ社長。」
「ああ、そうするよ。」
適当に答える東堂。
「え、マジ?大和テレビってこんななの?」
腹を抱えて笑い出すアキラ。
新宮は気にせず、東堂に近づくと、企画書を手に取って無造作に開く。
「俺の新しい企画を見ろよ。」
さっと目を通しだす東堂、俺にも見せろと、東堂の読み終わった企画書を読み込むアキラ
「ダメだな。」
「クソつまんねえ」
「な!」
二人同時のダメ出しにたじろぐ新宮。
「な、なにがダメだってんだこれは俺の今までのバラエティ人生の集大成の!」
「だからだ。新宮。」
「古くせえんだよ、おっさん。」
「確かにいつかどっかで見たことのあるような企画ばっかりですね。」
二人の読み終わった企画書を受け取り、読んでいた田中が言う。
「な、素人に何がわかるってんだ、いいかこっちはな、」
「だからだ、新宮。」
再度同じセリフを繰り返す東堂。
「新宮、この場にいるのはお前の言う素人ばかりだ。その素人が口をそろえて言うんだ。つまらない、と。それが全てだろう。
お前の言う素人それが視聴者だ。お前のお客さんは素人ばっかりなんだよ、お前が玄人だというのなら素人を楽しませてみろ。素人の度肝を抜いて笑わせてみろ。
お前この企画を誰か芸人やタレントを使ってやるつもりなんだろ?キャスティングは考えてあるのか?」
「あ、ああ一応ある程度は、まあ今のうちに出てくれるかどうかはわからんが俺の考える最高のキャストを考えてるぜ?」
「そうか、ならこのままやるか。」
そう言うと東堂は立ち上がる。
「桐山。」
ダメだ、私は見捨てられたんだ。もうダメだ、この後あの変な髪の奴につれてかれて奴隷みたいにされるんだ。
田中は目を細め、静かに新宮の様子を観察していた。外見では落ち着いているように見えたが、内心では新宮の焦りに興味を持ちつつ、東堂の一貫した冷徹さに感心していた。
東堂のやり方が本当に成功するのか田中にはまだわからない。しかし、目の前で繰り広げられるやり取りの一部に、確かに引き寄せられている自分がいることは否定できなかった。
呆けるかのようにやりとりを注視していた田中だがそれでも。
「桐山さん。」
玲奈ほどの衝撃はなく、彼女を揺さぶる。
「東堂社長がお呼びですよ。」
「うげ、あ、はい!」
「大丈夫か?あいつ」
玲奈を心配する新宮。あれだけ東堂に詰められても流石にメンタルの強さは年季が違う。
「桐山、会議室の予定を取れ。今から企画書対決のオープニングを撮影する。」
「付き合え、アキラ」
「あいよ。」
会議室は、すでに撮影スタジオのような雰囲気を帯びていた。
カメラマンや照明スタッフが慌ただしく動き回り、机の位置や光の調整に余念がない。
元々はただのオフィス空間だったが、番組のオープニングを撮影するために、簡易的なセットが組まれていた。
背景には大和テレビのロゴが入ったバナーが貼られ、テーブルの上にはそれぞれの企画書が整然と並べられている。
「音声チェック入りまーす!」
スタッフの声が響き渡り、マイクのテストが始まる。
天井には集音マイクが吊るされ、固定カメラの他に、数台のハンディカメラが動線を確保するように配置されている。
まるでニュース番組のセットのような緊張感が漂っていた。
「しかし、これはもう完全にショーですね」
田中が感心したように呟く。
「当然だろ。企画対決なんてただの会議じゃつまらん。本気でやるなら、見せる戦いにしなきゃな」
アキラがスマホを片手に言う。その口元には楽しげな笑みが浮かんでいた。
真帆は軽くため息をついた。彼女は普段の冷静な姿勢を崩さないものの、ここまでの演出にはやや呆れ気味だった。
まんまとアキラにのせられている。それが少し癪に障る真帆だった。
「わたし、あそこに立つんですね」
緊張した様子の玲奈が言う。
「まあ、硬くなるなって。楽しまなきゃ損だろ?」
アキラは肩をすくめながら、軽く玲奈の背を叩いた。
その時、会議室の扉が開いた。
「お、来た来た」
アキラが興味深げに視線を向ける。
東堂が悠然とした足取りで入ってくる。
彼の後ろには数名のスタッフが続いており、その中心には、大崎若菜と浅沼蒼一の姿もあった。大崎はまだ不安げな表情を浮かべているが、浅沼は覚悟を決めたように背筋を伸ばしていた。
「やけに大掛かりだな。おいおい、これ、会議室だったよな?」
東堂が周囲を見渡しながら軽く笑う。
「いえ、社長自ら発案した企画対決です。それなりの舞台が必要です。」
沢木真帆が当然だというように言い返す。
「まったく、」
東堂は肩を竦めながら、ゆっくりと演台の前に歩み寄った。
「さて、始めようか。」
東堂が静かに言い放つと、部屋の空気が一気に引き締まる。
彼の言葉に続き、アキラはスマホを手に持ちながら、軽く笑みを浮かべる。
スタッフが慌ただしく調整を始める。アキラはにやりと笑うと、自身のチャンネルも回しながら、次の動きを待つ。
浅沼はすでにその場に立っており、少し緊張した表情を浮かべながらも、司会の準備をしている。大崎と真帆はそれぞれの役割に向かって動き出していた。
東堂は、まるで何事もないかのように、周囲を軽く見渡す。
玲奈が東堂に歩み寄り、少し震えた声で言った。
「社長、この対決は、どうなりますか?」
東堂は目を細め、軽く肩をすくめる。
「決めるのは視聴者だし、お前だ。」
その言葉に玲奈は、次第に自分の立場を意識し始める。
田中は静かに視界を広げ、会場の雰囲気を冷静に観察していた。
その時、浅沼がマイクを手に取り、皆に向かって話し始めた。
「では、皆さん!本日、私たちが挑戦するのは、新宮ディレクターと視聴者の企画対決です!今からこの対決の模様を生配信しますので、どうぞご期待ください!」
いつものテレビとは違う生配信だからか、浅沼の声は少し震えていた。
しかし、次第に落ち着きを取り戻していく。
アキラが横で、スマホを操作しながら、
「テレビの企画会議になぜか参加してまーす。」
とつぶやく。
浅沼が視聴者の企画の紹介と番組チャンネルの概要欄から詳細が閲覧できることを伝える。
「そして、今回の企画の大和テレビディレクター新宮誠氏です。」
新宮がタキシード姿で登場し、やや緊張した面持ちでマイクを握る。観客席の視線を感じながら、少し落ち着かない様子で言葉を発する。
「では、皆さん!私が提案する新企画は、視聴者参加型のクイズショーです!」
新宮は勢いよく言い放つが、会場の反応は微妙で、アキラが軽くスマホをいじりながら呟く。
「視聴者参加型ねえ。」
アキラのあまり興味のなさそうな反応。
新宮はその反応に気づかず、さらに続ける。
「視聴者の選んだ問題が番組の進行を決定する、新しい形のテレビ番組です。これまでの枠にとらわれず、視聴者と一緒に作り上げていく」
その言葉に、玲奈が小さく肩をすくめ、目を少し細めながら反応する。
「面白くなりそうな気はしますけど、実際どうなるんでしょうね?」
玲奈は表情を崩さずに呟くが、少し懐疑的な目で新宮の企画を見ていることがわかる。
一方、東堂は静かにその様子を見守っていた。
彼は冷徹な表情でただ黙っている。それが逆に新宮にとってプレッシャーとなり、焦りを感じさせる。
「全く面白さを微塵も感じないんだが?」
アキラが再び口を開き、スマホをいじりながら言う。その言葉に、新宮は顔を紅潮させ、言葉が詰まる。
「だからこそ、視聴者が選んだテーマを進行することで、より参加感が強くなるんです!」
新宮が必死に弁明するが、視聴者からの反応も芳しいものはあまりない、空気は冷たいままだ。
田中は静かにそのやり取りを観察している。彼の視線はまるで観客のように、場の緊張感を感じ取っているだけだった。
「まぁ、視聴者が選ぶ内容だから、予測がつかないって点では面白いかもしれませんね。」
田中が淡々と口を開くが、その意見もどこか冷静で、感情的な反応は全く見られない。
新宮はその言葉に少し肩を落とし、心の中で焦りを感じながらも、何とか企画を続けようとする。だが、周囲の反応は薄く、冷たい空気が漂い続ける。
「それでは、これで私の企画のプレゼンを終わります。」
新宮が最後に一言を告げると、アキラはスマホを向け、軽く拍手をしてみせる。
「うければいいけどな。」
その言葉に、新宮は少し肩をすくめ、場を引き締めるように次の展開を待つ。
「それでは、視聴者の皆さんから頂いた企画の集計が出来ましたのでご覧いただきましょう、、、」
浅沼が司会を続けるがレポートを手にした表情が少し曇る。
「こちらです。」
しかし、一瞬で表情を取り戻し冷静に紹介を始める。
①遺恨を晴らす - 視聴者の恨みを晴らすために、過去の敵を追い詰める!
②最も価値のある人を決めるお金ゲーム - 仲間とお金をかけたサバイバルゲーム、最も価値があるのは誰だ?
③お金を取るか、仲間に譲るか? - 視聴者が決める!お金を取るか、仲間に譲るかを選ぶ戦い。
④暴露の最高の探偵と最強の弁護士呼んで慰謝料がっつりとって離婚させる戦い
⑤過去の犯罪の告白
⑥誰かの黒歴史さぐります!
⑦あなたの街の議員さん仕事してる?
新宮はそれらを見つめ、少しの間無言で考え込む。
「なんじゃこりゃ、こんなん出来るわけないだろう。素人が無茶苦茶言いやがって。」
新宮は、出来たら面白いかもなと思うものもあるが反射的にこれらのアイデアを否定していた。
「そしてこちらがSNS等の視聴者の反応です。」
会議室のスクリーンに視聴者の意見が映し出される。
新宮の企画と、視聴者の企画。AI判定を見るまでもなくその反応の差は歴然としたものだった。
#視聴者反応
【遺恨を晴らす めっちゃいい!前の会社のBBAに復讐させてくれ!、最高!】
【お金を取るか、仲間に譲るか? バレないってならお金一択じゃね?】
【過去の犯罪の告白 この企画やばい!でもこれ出演者いるか?】
【昔の大和テレビが返ってきたって感じだなあ。】
【黒歴史さぐります! やめてくれ!!!!】
【議員仕事してる? これ普通にRePurge案件じゃね?】
【離婚させるのか!!下衆が過ぎる!!正座してみます。】
【観んのかよ!!】
【コンプラとか大丈夫なん?これ】
「あ、いいなこれやらないのあったら企画頂戴よ東堂。」
アキラは興味深そうに東堂に頼む。
「いや、全部やる。」
「まあそうだよなあ。」
東堂とアキラ、その二人のやり取りにSNSが反応する。
【即決!!!!】
【え?てか、アキラいんじゃん?なんで?】
【しかも東堂社長の隣に座って呼び捨てしてるし、なんだ?株でも買ったか?】
【離婚させて慰謝料とってって。もう決定だろうけど、ちょっと引くよね。この企画本当にやるのか】
【議員仕事してる? 敵作り行くすたいるだなあ】
【こんな、クソみたいな倫理観だから今みたいな状況なのわかってんのか?ホントに反省してんのかよ。】
【マジそれな、なんか東堂体制なっても結局大和テレビって大和テレビなんだよな。】
【え?いいじゃん、見たいじゃん。】
「いや、無理だろこんなの。」
新宮が東堂に問いかける。
「何故だ?」
不思議そうに新宮へ問い返す東堂。
「特にできない理由は見当たらないが。」
「い、いやお前だってこれよ品性の欠片とかそういうもんも何もないじゃねえか。」
新宮が新宮らしからぬ理由で東堂に反論する。
「何言ってる、この企画撮るのはお前だぞ?」
「は、はあ!?」
東堂の当たり前だというかのような返しに驚愕する新宮。
「で、でもよ、ほら見ろ東堂。SNSでも批判もすごいぞ?やめといたほうがいいぞこれは。」
「それ以上に見たいと思っている層が多い。」
東堂の弁は確かに事実であり、スクリーンに映し出されたAI判定も視聴者企画のすべてが60%以上の評価を得ていた。
「しかし、社長これは今視聴してくださっている方々の評価です、どちらかと言えば大和テレビに好意的な方々の意見で実際放映するとなると、これ以上の非難は間違いないかと。」
玲奈が東堂に注進する。
「それがどうした。」
「え?」
驚く玲奈。
「嫌なら見るな、、、」
【あ、言った】
【昔聞いたなあ。遠い目。】
【禁句だろうそれは。】
【あれは、むかしのことじゃったあ】
東堂は続ける。
「嫌なら見るな、見たいなら見せてやる。」
ヒューっと口笛を鳴らすアキラ。
ちらりとアキラに目をやりそして、真帆と視線を交わす東堂。視線が合い、少しどきりとする真帆。
悪戯気な微笑を浮かべ東堂はカメラに向かって言う。
「どうせおまえら、観てないじゃないか。」
【た・し・か・に!!!!!】
【やっば、鳥肌見てこれ】
【最弱って最強なんだなあ】
【すみません、見たいので見せてください】
【言ってることは無茶苦茶なのになんだろう涙出てきた。】
【おばえごんなでなぐどが】
【うけるわこんなん】
浅沼が番組を締める挨拶をしているが、現場の混乱は収まらない。
笑い転げながらも自身の配信を続けるアキラ、東堂を怒鳴りつける新宮。
冷静にメモを取る田中。茫然自失の様でなぜか抱き合う玲奈と大崎。
混沌とした空間の中、この状況を産み出した張本人の東堂が困ったなと頬を掻く様を見て、真帆は笑った。
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