第43話 真実

この場にいる全員が言葉を失い、しばし茫然としていた。

現実味の無い話なのだけれど、あの勇者なら、あの兄ならそれに近しいことをしていたのかもしれないと思えていた。

その答え合わせをするにはどうしたらよいか。それも全員わかっている。

冒険家のジェミを探して、話を聞くことだ。

しかし、今これを口にすることに抵抗を感じる。ただ一人を除いて。


「ジェミさんに会えれば、本当のことがわかるのですね?」


その一人であるソリーサさんがそう言った。

これは憶測だけれど、どこにいるのか誰もわからないような人だから勇者は真実を託したのだろう。

もしそうであれば、ソリーサさんでなくても困難である。だから僕らは迂闊にそう言えなかった。


「ソリーサ…」


ウルスさんがかすれた声で名前を呼ぶ。

それだけで、無謀だからやめてほしいという気持ちが僕にも伝わった。


僕なら探し始めることができる。

ウィルコさんも協力してくれるかもしれないし、なにより今の生活を捨てる覚悟もある。それを止める人もいない。

ただし見つけられる自信は無い。それでも、ソリーサさんとウルスさんのことを考えて言い出すべきだろうか?


うん、背負う覚悟も持て。

ウルスさんが勇者からの伝言を話すことになったのは僕にも責任がある。


「僕がジェミさんを探します」


そう言うと、僕にみんなの視線が集まった。


「どのくらいかかるかわかりませんが、僕は絶対に諦めませんし、かならず報告します。

だからソリーサさん、僕に任せてくれませんか?」


ソリーサさんの表情が少し曇る。

ここにいる全員から退場を言い渡されたようなものである。

その理由も十分わかっているだろうから、何も言わなかった。


ふと、ウィルコさんが僕の後ろに目を向けた。

それに僕が気が付くと、足音がすぐそばまで来ていた。

振り返ると、タリサージさんとカプーリさんであった。


「その必要はありません」


タリサージさんが僕らに向かってそう言った。

あくまで勇者の死を隠すつもりなのかと思って身構えてしまったが、どうやらそうではなかった。


「そこまで知られてしまった以上、もう意味が無くなってしまったことでしょう。

もとよりこうなる可能性も考えていました」


タリサージさんが話せることはすべて話すと言い、僕らを建物の中へ入れてくれた。

中は普通の内装で、裏口から入ってすぐの階段を登ったからか、葬儀らしきものは何も見かけなかった。

案内されたのは広めな部屋で、長テーブルがいくつも並び奥には黒板も見える、まるで教室のような所であった。

入口手前のテーブルに全員で座り、タリサージさんの言葉を待つ。


「お茶の一つでも用意したいところですが、それどころではないでしょう」


タリサージさんはすぐに真実を語ってくれた。


まず、タリサージさんはマズー霊石と深い関係があるとされている部族から追放された子孫であった。その一族は放浪の末に別の場所でマズー霊石を見つけてひっそりと暮らしていた。


ここまではヌイさんとリトさんの推測の通りになった。


マズー霊石を使って何をしようとしていたのかと言うと、タサン病の研究と根絶であるという。

タサン病の原因とされている瘴気について何もわかっていないが、マズー霊石はその瘴気を浄化する効果を持つことができるとその部族は昔から知っていて、定期的に儀式と称してマズー霊石に浄化する力を与えていた。

それを世に広めなかったのは、浄化の力を与える方法に問題があったからである。それは人の生気を捧げる必要があったから。

生気無しでもある程度浄化してくれるが、すぐに黒くくすんで効果が無くなってしまい、そうなると生気を与えることもできなくなってしまう。逆に、生気を与えると何十倍の効果を持つ。


この話で、勇者がウルスさんに伝えたことと、ソリーサさんの病が治った理由がわかる。

勇者の生気をマズー霊石に与えて、それをソリーサさんが肌身離さず持つようにすることで、タサン病の瘴気が浄化されたのだ。


瘴気を浄化しているのはマズー霊石ではなく人間の生気の方であり、瘴気が人間を蝕むのは生気に対抗しているからだとタリサージさんたちは考えていた。しかし、それを公表して研究して発展させようとする考え方が伝統と衝突してしまった。なにせ生気を吸う恐ろしい石でもある。伝統として慎重になるのも頷ける。


「あの子を、ライブを見つけたのは本当に偶然でした。

ライブは特別な人間であり、私たちの考えが正しかったと証明してくれた。

瘴気がライブを蝕もうとして逆に浄化されていく光景は、本当に神秘的であった」


瘴気を可視化する術を手に入れて、マズー霊石が取れる発掘場で、出稼ぎに来ていたライブを見つけたのは運命だったとさえ思ったとタリサージさんは言った。


「今にして思えば、残酷な取引をしたと後悔もしている。今だったら研究に協力してもらうだけでもよかった。だが当時の私は自分の研究を証明することだけを考えてしまっていた」


その結果がこの現実である。

勇者の願い通り、ソリーサさんは健康を取り戻し幸せに暮らしている。

その代わり、勇者は多くの寿命を失い、そして、マズー霊石を道連れにしていった。

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