第28話 言葉の意味

「ちなみにですがウィルコさんは、カプーリさんからお話を伺っているだけと思っていいですか?」


ウィルコさんがわずかに眉をひそめる。


「それは、私が亡くなられた勇者を見ていないことを確認されていますか?」


ソリーサさんとウルスさんにも反応があった。

なぜ僕がそんなことを聞いたのか。悲しみに暮れていた人たちからしたら不快であっただろう。

嘘でこんなことを言うわけがないのだから、疑うことがありえない。


「すみません、もちろん変な質問をしているのはわかっています。

僕が部外者だからだというのもあるかもしれませんが、ずっと見えてこないんです。

"あの勇者"が亡くなられたのに、まだ何も起こっていないのが不思議なのです」


勇者を探せば探すほど、勇者とは何かを考えさせられている。


「シーノさん、あなたがおっしゃりたいことはなんとなくわかりますが、もしかしたらそれは見方が少々偏っているのかもしれません」


思わぬ反撃を受けて僕は一瞬ひるんでしまった。

見方が偏っている。その自覚はもちろんある。でなければ崇拝しているなんてことを公言しない。

だが、世界を平和にして、多くの人から感謝されているという事実があるではないか。

そんな人をたったの十年で一個人にしてしまうことも、はたして正常だろうか?


もし勇者が望んだのなら、それは正しいのか?


「たしかに私は見ておりませんが、勇者とゆかりのある者たちだけで葬儀をやるため、私はソリーサさんたちをお迎えに来ています。それだけで証明にはなりませんか?」


それはその通りである。


「ですが…」


「てめぇいい加減にしろ!」


ウルスさんが静かに吠えた。ソリーサさんを守るように僕を威嚇する。


「だから新聞屋は嫌いなんだ。お前らが面白く書きたいためにひっかき回しやがって」


その怒りは当たり前だと思った。しかし、勇者を崇拝する者として、新聞屋としてここは譲れなかった。


「ごめんなさい、僕が変な聞き方をしてしまいました。

たしかに今のは僕の主観、死んでほしくないという願いが混ざってしまっていました」


僕は頭を下げて気分を悪くさせてしまったことを詫びる。


「だからもう一度、違う形で確認させてください。

カプーリさんはまだ何も知らないウィルコさんにそうお話されたのですね?」


ずっとウルスさんに怯えていた僕が真っすぐ対向してきたので、食卓にさらに緊張が走る。


「はい、そうです」


「勇者一行でも二分しているという話、あれもカプーリさんから伺っている話ですよね?

"ありのままを知らせてもいい"というのは、自殺したという事ではなく、なぜ自殺したのかという理由についてなのではないですか?」


そう、いくら亡くなったことを隠したところで、勇者ほどの人物がいつまでも音沙汰なければ、かならず明るみに出るはずなのだ。

今はゆかりのある者だけで。というのはわかるが、それならもっと適切な言い方があるはず。


ソリーサさんが顔を上げる。涙でぐちゃぐちゃになっている目をウィルコさんに向けてこう言った。


「理由って」


ウィルコさんは俯きながら答える。


「さきほどお話した通り、それは葬儀の時に…」


そこで終わってしまったウィルコさんに、今度は僕が問いかける。


「遺書があるということですか?」


ウィルコさんは首を小さく振った。


「わからないです。カプーリさんは葬儀の時に説明があるとしか」


言葉通り受け取ると"説明"というのが気がかりである。

遺書があるとか、伝えるとか言うなら自然な気がするが、説明と言われると客観的な印象を受ける。

例えば、医者が死因を説明するような。


それと、勇者の自殺を秘密にしない派のカプーリさんがウィルコさんに自殺の理由を話していないのも気になる。ソリーサさんの迎えを頼むくらい信頼しているという点を考えると、カプーリさんも自殺の理由を知らない可能性が出てこないか?


そうなると、次に向かうべき方向は二つ。

一つはヌイさんやリトさんのように外側から情報を集めて答えを導き出す方法。

もう一つは、内側から直に答えを聞き出す方法。

だけど、そのどちらも難易度が高い。


「ウィルコさん、僕がその葬儀に参列することはできますか?」


「私から言えるのは、おそらく無理としか」


それはそうだろう。関係者だけでということでウィルコさんがソリーサさんを迎えに来ているのだ。


「ただ、その場まで来てしまうことを止めることもできないかもしれません」


次の一手を模索していると、ウィルコさんが続けて思いがけない提案を出してきた。


「待ってくれ、いくらウィルコさんでもさすがに言わせてくれ、なんでこんな奴にそこまで目をかける?」


ウルスさんが黙っていられずに割って入ってきた。


「仮にさっき話していた意図みたいなものがカプーリさんにあったとして、だからってこんな奴を受け入れるなんて、ソリーサのことも考えてくれ。そのためにあなたが来たんじゃないのか?」


あきらかにウィルコさんは動揺していた。

僕が指摘したカプーリさんの意図と、ウルスさんのいうソリーサさんへの配慮。この二つを天秤にかけている。

本来なら僕を切り捨てるところなのだろうけど、ウィルコさんにも何か思うところがあるのかもしれない。

そこがどうにも引っかかって、僕を取り込むことで何かわかるかもしれないなどと考えてはいないだろうか。

僕が無理についていくことも尾行することも、あの黒服たちがいる限り無理だろう。

となると、なんとかつれていくしかないわけだが。

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