失恋のその先(ひかり)

ようやくと言うべきか、やっとと言うべきか。

目の前で手を繋ぐ維澄とかなに、ひかりは精一杯の笑顔を浮かべた。

「おめでとう!」

ギュッとかなを抱きしめると、照れくさそうに笑った。

12月に入り、寒さが増してきた頃、維澄とかなが結ばれた。

嬉しくて同時に切なくて、涙がこぼれそうになる。

グッと唇を噛んで堪え、かなから手を離した。

(文化祭からだいぶ経ったしそろそろだと思ってたのに…)

どうしてか、2人とも告白まで踏み切れなかったらしい。

「お祝いしよっか?」

「私、今日は部活なんだ」

「え?そうなの?」

「あれ?言ってなかった?」

「きいてないよ!」

言い争いを始めた彼らを横目に、ひかりはカバンを背負い直した。

(……ここで、終わり。かぁ…)

窓の外を見ると姫名と恭介が手を繋いでいるのが見えた。

マナの話では、文化祭の翌日に無事付き合ったらしい。

楽しそうな姫名と対照的に、マナは元気がなかった。

(……今はどうしてるのかな)

まだ言い合っている維澄たちを置いて、教室を出た。



「あ…」

翌日の昼休み、渡り廊下を歩いているとマナを見つけた。

「マナ先輩!」

「ひかりちゃん…」

振り向いたマナの顔は真っ青だった。

(うそ……こんなに体調が悪くなるまで我慢してたの…?)

何も言わないひかりをどう思ったのか、マナが微笑んだ。

「驚かせちゃったよね。…ちょっと最近寝不足で」

微妙に視線を逸らすマナに、事実ではないと直感する。

「そうだったんですね。ご飯は食べてますか?」

「………?………。…最後に食べたの、いつだったかしら?」

「えっ!?文化祭の日は食べてましたけど、それ以降食べてないんですか!?」

「……………病院の薬を飲んだり寝てることが多くて…。……あら?食べてない、かな?」

首を傾げるマナに、サァーと血の気が引いていくのを感じた。

『マナ先輩は体が弱くて入院したり、薬を飲んでることが多かったの』

かながそう言っていたのを思い出し、気がつけばマナを抱きしめていた。

こういう時、無理に食べさせるのは良くないだろう。

それでも彼女を放置することはできない。

(私にできることはないけど…)

そばにいることはできる。

「ひかりちゃん?どうしたの?」

「マナ先輩が倒れそうだったので」

「授業、始まっちゃうよ?」

「……こっちのほうが大事です」

離れようとしないひかりに、マナは驚いていたけれど泣きそうな顔で微笑んで頷いてくれた。

「……私の話、聞いてくれる…?」

「もちろんです」

チャイムが鳴り響くと同時に、彼女の瞳から涙がこぼれた。



「……そう、だったんですね」

「うん……諦めたのに、やっぱり忘れられなくて」

泣きじゃくるマナの手を握りしめて、ひかりは眉根を寄せた。

姫名のために自分の想いを伝えないことを選んだのはマナだ。

それでも辛さは変わらないはずだ。

本気で好きだったからこそ、忘れることができないのだろう。

(……私も想いを伝えられないのは辛いって思ったな…)

マナとは比にならないけれど、同じ目線で話すことはできるはずだ。

「……好きなら、好きなほど忘れるのは難しいです。それも、自分の気持ちを押し殺したのなら尚更…。私もそうでした」

「えっ?」

「言いませんでした?好きな女の子がいるって」

「……ああ」

「彼女、昨日、彼と付き合ったって報告に来てくれたんです」

「……そう、なんだ…」

「びっくりしちゃって」

ポツポツと話すひかりの肩をマナが抱き寄せてくれた。

その冷たさに目を見開いたけれど、それ以上に心臓がうるさかった。

(……近い…)

前から少し気になると思っていたけれど、こんなに話したのは初めてだった。

まだ潤んだ瞳で、マナは優しく笑っている。

「……おんなじだね」

「そうですね」

2人で抱き合ったまま、授業終了のチャイムが鳴るまで動かなかった。

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