月と太陽
翌週の日曜日。
大会を終えた恭介が、自室でくつろいでいるとスマホが振動した。
取り上げてみると、マナから電話がかかってきていた。
「もしもし?」
『あっ、恭介くん?ごめんね急に』
「大丈夫ですよ。どうしました?」
『今何してるかなって。忙しいかな?』
「さっき試合から帰ってきたところです。シャワー浴びて少し寝てました」
『お疲れ様。恭介くん、陸上部なんだっけ?』
「はい。かなから聞いてたんですね」
『まあね。あ、姫名が帰ってきた。恭介くん、ちょっと待っててね』
電話を切るかと思ったが、予想に反してマナは電話を繋げたまま姫名に声をかけている。
(……何だ?姫名先輩も電話するのか?)
電話の向こうで、バタバタと物音が聞こえてきて、恭介は首を傾げる。
『ほら、姫名』
『私はいいよ!マナ、話してるじゃない』
『えー?姫名を待ってたんだよ。ほーら。あ、恭介くんいいかな?』
「はい大丈夫です」
『ごめんね、恭介くん』
「いえ」
『試合、結果よかったんでしょ?おめでとう』
「ありがとうございます。何で知って……?」
『藤村から聞いたの。先週の試合も、いい結果出してるって喜んでたよ』
「藤村先輩が!?わぁ、やった!ありがとうございます!これからも頑張らないとなぁ」
藤村幸樹。陸上部の先輩で、エースだ。
他の先輩たちよりも、多くの大会に出ていて結果を残している。
恭介の憧れの先輩だ。
その藤村が恭介を褒めてくれていた。
嬉しさに、頰が緩んでいく。
『うんうん!頑張れ!』
それからしばらく、姫名たちと世間話をして電話を切った。
スマホを放り投げてベッドに倒れ込むと、やかましい鼓動が聞こえてきた。
ここ最近、ずっとそうだ。
姫名とマナと話すと鼓動が騒がしくなってしまう。
(……本当、誤魔化しようがないんだよなぁ…)
どこまでも正直な体は、芽吹き始めた感情を知らせていた。
「もー!マナ。急に電話に入ったから、びっくりさせちゃったじゃない」
「ごめんごめん。まぁでも、恭介くんも楽しそうだったし、結果オーライでしょ?」
本当は話せて嬉しかったくせに、姫名は頰を赤くした視線を彷徨わせている。
「ま、まぁ?………嬉しかったけど……」
「よかったじゃない。…今度は、電話かけられるといいね」
コクコクと頷く姫名に苦笑を漏らし、2階へ向かう。
(本当、あんなに心配しなくても大丈夫なのに)
あの恭介だ、姫名からの電話を断ることはあり得ないだろう。
姫名もそれをわかっているはずなのにためらっているのはー。
(……でもそっか。知らないんだ)
ーそれなら、まだ頑張ってみてもいいのかな。
姫名を応援したいと思う反面、自分の気持ちが大きくなってきているのも事実だった。
太陽のように、皆に優しい恭介と月のように静かに見守ってくれる姫名。
お似合いの彼らの間に、マナが入る隙なんてないことはわかっている。
それでもー。
マナはギュッと目を閉じた。
瞼の裏に思い浮かぶあの人は、どうしたって変わらなかった。
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