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一同が連れてこられたのは、ひときわ大きな建造物だった。壁全体が白く、特徴の無い、円柱状の建物で、窓やドアは全てが左右対称になっている。着飾った個体は入口らしき空洞の前で乗り物を止め、一堂に降りるよう促す。全員が下りたのを確認すると個体は空洞の中へ進んだ。聞こえるのは衣擦れと足跡の反響だけ。銃を突き付けられたり脅されたりしている訳ではないのに、緊迫した空気が周囲に満ちる。何を考えているかわからない、伝わらない。それは明確な敵意よりも恐ろしく感じた。
やがて広い空間に出た。そこには街で出会った生命体たちとは装いの違う者たちがいた。壁際中央にはシンプルだが座り心地の良さそうな椅子が置かれ、そこに一体が座っている。座高しかわからないが、かなり高身長のように見えた。かなり衣類、装飾が華やかで、地位が高そうなことが窺えた。その後ろにはまた高身長な個体が二体並んでおり、直立不動である。こちらは先ほどの一体よりはシンプルな装いだが、纏う空気が凛としており、今まで出会った個体とは差別化できる。他にも何体か確認できたが、それらは一切音を発することなく、じっと乗組員たちを見つめていた。先導役が空間の中央でピタリと止まり、他の個体たちの列に加わった。一同はいきなりその空間の中央に投げ出され、もはやどうすることもできず直立のまま固まるしかなかった。生命体からはなんの反応もなく、しばらくは沈黙だけが流れた。
中央に鎮座していた個体が立ち上がり、頭を垂れた。
≪ようこそ、人間の皆さん。まずは気の利いた歓迎ができなかったことを詫びます。≫
言葉として受け取れたそれは不思議な音だった。声のようであって、声でない、心地の良い音だった。そして、乗組員たちは気づく。個体の口は微動だにしていなかった。それは不思議と言葉となって乗組員たちの頭に沁み込んだ。乗組員たちの動揺を感じ取ったのか、個体は口角をわずかに上げ、笑ったような表情を作った。
≪そう、失念していました。あなたたちは、この口という器官から発する音、言葉というもので意思を伝え合うのでしたね。驚くのは至極当然のことです。我々はそのような音を使わないので。自分の意思を伝えるには、このように直接投げかければ済むことですからね。≫
個体は椅子に座り直し、椅子の肘置きを指でトンと叩いた。すると乗組員たちの後ろに椅子が出現した。どうやって現れたのか、一同の目には確認できなかった。
≪まあ、お座りください。まずははるばるこの星へようこそ。≫
個体は乗組員へ着席を促す。
「何、何、何なの?さっきからわけわかんない、怖い。」
堪らず一人が声を上げる。それを皮切りに乗組員全員へ不安と恐怖の波は伝播し、一同はパニックに陥る寸前だった。ひどく人間に酷似した生命体の存在、奇妙なコミュニケーション、無音の星…。大きな使命を背負い、精神をすり減らしてきた旅人たちを狂気の縁から深淵へと突き落とすには十分なことは起こっていたのだろう。
「ありがとう、未知なる者よ。さあ、皆着席を。」
船長ただ一人だけは、毅然とした態度で生命体へ向き合った。自身も心身ともに限界に近づき、発狂してしまえば楽であろうに。地球に残してきた弱者を救うという使命感や乗組員の長たる責任感だけが船長を奮い立たせているようだった。乗組員たちは船長の言葉に何とか正気を取り戻し、全員が用意された椅子に着席した。
≪…よろしい、落ち着いたようですね。ああ、申し遅れました、私はセレイとで申します。では人間の皆さん。早速だがあなたたちがこの星に来た理由をお聞かせくください。特にそこの方は、かなり事を急いていることが伝わってきますね。≫
セレイは船長に目線を落とす。船長は椅子から立ち上がり臆することなく発言した。
「お気遣い感謝申し上げます、セレイ殿。こちらも申し遅れました、わたくしは皆から船長と呼ばれる者です。単刀直入に申し上げます。理由は一つ、我らの仲間をこの星に受け入れていただきたい。」
船長は這いつくばり、頭を垂れながらさらに続けた。
「我らの星は戦火が渦巻き、同族殺しの醜い愚かな争いで朽ちかけています。そして、罪もない弱き者、戦いに疲れた者、戦いを忌む者には到底住むことの出来ぬ場所となり果てました。一部は他の星に逃げ延びることはできましたが、それももう限界です。身勝手なお願いとは百も承知ではありますが、もはや我らには残された道はありません。この星のこの環境こそ、我らが生き延びることができる条件が揃っています。どうか、その寛大なお心で、我らの同胞を受け入れていただきたく!」
船長が額づくと、乗組員たちも続いた。船長の悲痛の叫びが広い空間にこだまし、徐々に壁に吸い込まれるようにして消えた。あたりには生物が発する生命活動音のみが、只々規則正しく時を刻む。
途端破裂音が響いた。
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