幕間、第一王女専属侍女の独白

 デルル殿下がかわいすぎます!


 最初はうまくやっていけるか不安で不安でたまりませんでした。

 お顔も暗く、おはなしもできず、お食事を用意しても何をしても反応が返ってきませんでしたので、私は仕事ができていないのか、それとも、嫌われているのか。

 よくわからなかったので、ヴァイオレット、死んでしまうかもしれません! と、泣いてしまいそうになったこともあったのです。


 しかし、サー=スレイキルが来てからというもの、殿下は大変明るくなりました。

 恋をしたんですね。とても愛らしいです。

 殿下は笑顔が素敵なのです。

 

 瑞々しい林檎のような赤毛に、やわらかで白いふっくらほっぺの笑顔です。


 どこかの国では赤毛は忌避されるものらしいですが、きっとそんな人が見ても殿下のは綺麗に見えます。

 ええ、そう見えるようにお手入れさせていただきますとも!

 殿下の笑顔が一番ですから。


 だから、サー=スレイキルには感謝してもしきれません。

 様々な逸話を聞いておりましたので――、例えば、敵を粉みじんにするのが好きだとか、血まみれの顔で舌なめずりするとか、殺戮者とか、空を飛ぶとか、巨大化するとか、気が付いたら後ろから刺しているだとか――、どうしてそんな恐ろしい方が殿下と婚約を、とも思わなくはありませんでしたが、接してみたら、案外、誠実な方で、この方に助けてもらったから、殿下も好きになったんですね、と納得できる良い方でした。

 確かに、戦争の話や、物騒な話をするのは、ちょっとアレかなと思います。

 やめてほしいなとも思わなくはないです。

 しかし、お仕事のおはなしですから、致し方ないことなのでしょう。

 まあ、でも、一番は殿下が楽しそうなので、推奨はしませんが、いいものだと思いましょう。

 きっと、あれと同じようなものです。

 小さい少年が、誰もわからない石ころや木の棒のことを永遠と話し続けるような、それと同じことなのです。

 そう考えると、とても微笑ましいものに思えてきます。

 仕事の熱意が高い方なのですね、サー=スレイキルは。


 私もそれくらい熱意高くご奉仕したいものです。

 かの伝説の侍女、メイディスト様のように。

 メイディスト様は一度に五十人の王族にお仕えしていたと聞きますが、どんな雑な指示でも主人の意図を汲み取り、的確にお仕事をなさったそうです。

 残念ながら、私にはそのような能力はありません。

 デルル殿下がどうして離宮に追いやられているか、不遇な目にあっていたのか。

 故ジュリア王妃が理由もなくそのような境遇にするはずがないので、それが理解できない私は能力が足りていないということなのでしょう。

 だから、せめて明るく。殿下が健やかに過ごせるように、言われたことを忠実に守る従僕でありたいものです。


 もちろん、いけないことはしません! 暴力とか殺生とかは恐ろしいですから。


 私のできうる限りの全力で、デルル殿下のお役に立てればと思います。

 最近は後輩の執事もできましたので、より仕事に精が出るというものです。


 今日も頑張りましょう、ヴァイオレット!

 全ては、デルル殿下のために!

 

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