リア充爆発(物理)

あっぴー

第1話 宇宙からの使者

僕の名前は倉井隅夫、上井高校1年生。

名前通りの暗い隅っこキャラで、不良グループにひどいいじめを受けている。

物を隠されたり、トイレの個室の上から水をかけられたり、配布物を破られたり、

空き教室や校舎裏に引っ張られて服で隠れる所を殴られたり、まあ典型的だ。

いじめのきっかけは、見た目の冴えなさ、体力のなさ、そして入学式の日にクラス全員で行ったカラオケで深夜アニメの内輪ネタ満載の主題歌を歌ったことだろう。

この高校は名前の通りウエイ系が幅を利かせすぎていて、中学とは別世界だ。

ああ、殆ど何も考えずにお父さんと同じ高校に決めた自分が恨めしい。


今日も放課後殴られて、排泄物が流れ切っていない便器に顔を突っ込まれていると、

不良のボスの彼女がやってきた。

「ちょっとお、いつまでこんな奴かまってんのお? あたしと遊んでよー」

「おお、そうだな」

彼女に腕を取られて、不良はだらしなく鼻の下を伸ばした。


ふう、命拾いしたあ…

しかし、なんでこんな僕より不真面目で勉強もできない奴がこんなに楽しそうなんだ…

こいつら、今日の学校そばの七夕祭りにでも行くんだろうな。

こいつらだけじゃなくて沢山のカップルや、幸せな家族や友達グループが。

僕は当然、友達も彼女もいないし、両親は忙しいと金欠が口癖で構ってくれないのに。

そう考えると無性に腹立たしくなってきた。


そんな日に限って、帰り道で空き缶を踏んづけて腰を強打する追い討ちを食らった。

あー、全身が痛い…もしかしてどっかの骨にヒビ入っちゃったかなあ。

お母さん帰ってきたら病院連れてってもらお。


誰もいない家の鍵を開けて、テレビをつけてソファーにうつ伏せに横たわる。

このテレビもいい加減古くてなかなか点かないのに、両親は買い換えてくれない。


しばし死んだように伸びていると、背後から素っ頓狂なアニメ声がした。

『やあ、はじめまして! ボクは宇宙の使者、ピロロだピロ!

ボクたちP星人は毎年7月7日、七夕の日にその国で1番気の毒な

地球人の子供の願いを叶えてあげるんだピロ!

ボクは日本担当で、今年はキミが選ばれたピロ! おめでとうございまーす!

さあ、なんでも願いを言ってみるピロ!』


テレビがやっと点いたと思ったら、くだらない子供番組のようだな。

そういや、今の僕の1番の願いってなんだろう。

やっぱ、これかなー



「リア充爆発しろーっ!」



『かしこまりましたピロ!』

ちゅどーーん


ーえっ?

テレビのキャラが返事した?

そして、なんだ今の数々の爆発音は⁉︎

反射的に窓から外を見ると、半数ほどの家と、よく見ると道にも爆発跡があった。


『仰せのままに、リア充は1人残らず爆発させたピロ!』


えっ…これやっぱり…テレビの話じゃ…ない…

てか、テレビ、まだ点いて…ない…?

と、いうことは…


慌てて顔を上げると、テレビのやや右に、20cmほどの紫色をしたクラゲの頭から

アンコウのような触覚を生やしたような生き物がプカプカと浮いていた。

「な、なんだおまえ!」

『さっき名乗った通りのピロロだピロよ!』

ピロロにはよく見ると、クラゲと違ってはっきりとした顔があった。

くりっとした目にキュッと上がった口角。

「おまえ…可愛らしい顔して、やることえげつないなあ」

『仰せのままにしただけだピロよ? ご不満ですかピロ?』

「いや…よく考えたら、えらいことだけど不満はないや、寧ろ歓迎」

非リア充ばかりなら、馬鹿にされ攻撃される可能性は激減だ。

『喜んでいただけて光栄ピロ』

「人間が爆発したのに肉片が散らばってない所もいいね」

『人体は目に見えないサイズにまで砕いて爆発させたピロ』

「さすがだね」

ピロロはえっへん!と胸を張った。


「さてと、夕飯にするか…」

ひとり冷蔵庫を開けてコンビニ弁当を取り出すのも、もう慣れたものだ。

『あっ、ゼリー、これおいしいピロねー。

 味もさることながら、このプルプルした地球外生命体感がたまらんピロね。

 ボク、これで3食いけちゃうピロよ』

「ああ、そのボディサイズならゼリー1つで1食分でちょうどいいのか」

『地球人で言う所の、どんぶり一杯分ピロね』

ピロロには僕にはちょっとせせこましいと感じるプラスチックのスプーンがピッタリで、

足をクルクルと器用に使って、パクンパクンと実にうまそうにゼリーを喰らった。


「しかし、年に1回、各国って言ったら190人ぐらい?の子供の願いを叶えてるのに、

よく今までこのレベルの大事件が起こらなかったね」

『大抵はひどい親の良いようにされてる小さい子が選ばれるピロ。

だから、お願いはお菓子がたくさん欲しいとかの、可愛らしいものだピロ。

隅夫くんだって、不幸判定日が1日でもズレてたら選ばれてないピロ。

しかし、ボクの一族は18歳までを子供としてるピロが、

中学生超えた不幸な子は、ヤケになるのか災害を求める率が高いピロねー』

背筋が凍った。

みんなが自然の成り行きだと思っている災害のうち、こいつらが起こしたものがどれだけあるのだろう。


夕食が終わる頃、家電が鳴った。

「はい、もしもし?」

『こちらニコニコ製菓ですが、倉井隅夫くんですね?』

「は、はい…」

お父さんが働いてる会社だ…なんだろう…しかしなんだか頼りない声の人だなあ…

まさか…

『落ち着いて聞くんだよ。君ももう気が付いているかもしれないけど、

 今、国民の半分ほどが爆発して跡形もなく消える現象が起きていて、君のご両親もー』

「えっ!」

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