待ちぼうけ

 期末テストを終え、採点された解答用紙が紙ヒコーキになって教室内を飛ぶ。

 他生徒がふざけ合い、通り過ぎていくなか、愛沢ノアはスマートフォンを落としそうになった。

 送られてきたショートメールは「今日は用事で一緒に帰れません。ごめんなさい、また明日一緒に帰りましょう」と書かれ、ノアにとっては目の前に吊るされたニンジンを追いかけているような気分だった。

 隣の席ではクラスメイトが、バニラの香りがするハンドクリームを塗りながら、嬉しそうに友達と談笑する。


「テストギリやばかったねー、特に数学が平均点ギリギリ、でも家庭と保体結構いい点だったから、頑張ったご褒美に焼肉だって。おばあちゃんがご馳走してくれるんだ」

「超いいじゃん、アタシ駅前の回転寿司だよ。でもパパと外食とかすっごい久しぶり」


 テスト終わりのご馳走が耳に入り込んでくる。

 ノアはバニラの甘い香りのせいで、黒いセーラー服と三つ編みおさげ、丸メガネの奥で凍てついた瞳を崩す、黒松ヒマリの微笑みが思い浮かんでしまう。

 ブルっと震えたスマートフォンに目がいく。

 今度は母親から、「期末テストお疲れー、今日はね、たっくんがご飯食べに行こうって、だから早く帰ってきてよー」というメッセージが送られてきた。


《そういう気分じゃない、ヒマリちゃんに会えると思ってたのに……やっぱり向こうはトップレベルだから、考え方も違うんだ。ミクちゃんはいいなぁ、学校が同じだから毎日会えるんだ……やだなぁ、私、妬いてる?》


 じんわりと胸を焦がす痛みに、ノアは机に伏せてしまった――。

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