ヒマリの後輩
私立の中高一貫校、二年生の教室に戻ってきた黒松ヒマリは、机の引き出しからスマートフォンを取る。
丸メガネの奥で凍てつく瞳が、何件もの通知を眺める。
『今日の課題、やったの?』
『勉強と関係ないことしてないでしょうね』
似た文面が液晶画面を覆いつくす。
ふぅ、と息を吐き、『今から帰ります』と返信した。
「ヒマリ先輩! 遅くまで勉強ですかっ」
背後から聞こえた明るく純度いっぱいの声に、スマートフォンを素早くカバンに入れて振り返る。
ポニーテールに前髪を切り揃えた高校一年生のミクは、上級生の教室に踏み込む。童顔で無垢に近い瞳と華奢で小柄な後輩が、キラキラと見上げている。
「ミク、あなたも居残り?」
「はい、小テストの復習と、あと……」
「また何かしたの?」
「またとか言わないでくださいよっ、その、今日の課題全部したのに、先生に送る前にデータ消去しちゃって、追試受けてました」
恥ずかしく両手を前にもじもじさせて、ミクは自らやってしまったミスを告白した。
何回目かのミスを聞いたヒマリは、「もったいない」と肩をすくめる。
「せっかく首席で入学したのに、先生方の評価が落ちたら意味ないわ」
「はい、今度は小まめに保存します。ところでっ、ヒマリ先輩、忘れ物されたんですか?」
思わぬところを突かれたヒマリは、静かに目を丸くさせた――。
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