Before the Death Game やがて殺し合う僕たちが築いた世界のこと

サトウ・レン

After the Death Game8

「epilogue 終わりの終わり」side.一刀

「だから偉いひとたちは相談して、この法律を作りました。バトル・ロワイアル。そこで今日はみなさんに、……ちょっと殺し合いをしてもらいます。最後のひとりになるまでです。反則はありません」――――映画「バトル・ロワイアル」より



「初めはうまくいってたんです」とラーフがいった、「でも、そのあとで、いろんなことがあって――」

 彼はいうのをやめた。

「ぼくらは初めはいっしょに団結してやっていたんです――」

 士官は、相手の心をはげますように頷いた。――――ウィリアム・ゴールディング/平井正穂訳『蠅の王』(新潮文庫)より





 あの頃、僕たちはただの高校生だった。

 だけど、僕だけは最初から知っていた。

 僕たちがただの高校生のまま終わらないことを。


 夜雨がほおを撫でる。

 冷たい、と藤原一刀ふじわらいっとうは思った。

 雨なんて降ったのは久し振りだ。すくなくとも一週間のうちには、一度もなかった気がする。もっと降ってくれ、と一刀は夜空を見上げた。雨夜の月は灰色に染まった雲に隠れて、見ることはできない。


 願わくば、限りないほどの雨を。


 この島に流れた血が、すべて流れ去るように。

 彼らの犯した大罪が、すべて流れ去るように。

 噴き上がった怒りが、すべて流れ去るように。

 悲しみの果の絶望が、すべて流れ去るように。


「一刀くん、頬」

 隣にいた明野陽あけのようが焦ったように言う。その言葉を聞いて、一刀は右の頬に自分の手を当てる。血だ。こめかみの傷が開いたのだろう。身体にできたいくつかの傷のうち、どの傷かさえも、もう曖昧だ。痛みはほとんど感じない。長く続く非日常的な時間が感覚を麻痺させたのだろうか。


 ふと、一刀はむかしどこかで聞いた言葉を思い出した。

「大丈夫だよ。そう言えば、さ。むかし、どこかで聞いたんだけど。『死ぬこと以外はかすり傷』って言葉あるだろ」

「誰だろう。九段くんか石島くんあたりかな」一刀の言葉に陽がちいさく笑って、もういなくなってしまったふたりの名前を出す。「……でも本当に大丈夫には思えない。どんどん血が」

「いや、たぶんテレビか本か、そんなところじゃないかな」

 のんびりと会話が出来ている。一刀はその状況がすこしおかしくて、心の中で思わず笑ってしまった。


 陽。きみは僕の心配をしているけど、これから僕たちは殺し合うんだよ。

 もうここにはふたりしかいない。生き残っているのは、一刀と陽のふたりだけだ。この短い期間で、長く一緒の学び舎で過ごしてきたクラスメートたちは全員、死んでしまった。生き残れるのは、ひとりだけ。


 そんなの最初から分かっていたことだ。

 もう一年も前から。

 もしもこんな場面が訪れたとしたら、心に決めていたことがある。


 一刀は持っていた刀を抜く。まだ一度も血に染まっていない武器だ。

 陽が、ほほ笑んだ。

 覚悟を決めたような目をしている。もうこの目を見ることもないのだろう。

 はじめて、ひとを殺す。

 一刀の手は震えていた。恐怖で。


「ごめん、陽」

 頬を伝っているのが、血なのか、雨なのか、涙なのか。


 もう分からない。


「ありがとう。あなたと出会えて、楽しかった――」

 陽の表情が驚きに変わった気がした。

 そして鋭利な切っ先が――――。

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