第7話 I wanna-愛罠-

『I wanna-愛罠-』


I wanna 好きになれないのはそのハートだけ

五感の全てが君を求む

理性の弱い自分が嫌になる

絡みつかれた愛の罠


初めて君を見た日から

理想のフォルムに囚われた

計算高いと知ってからも

心は離れられない


どんな洗剤を使っても

君の香りは出てこない

クラクラした拍子にいつか

手を伸ばしてしまいそう


I wanna こんな気持ち告げたら罪になりますか?

何もかも捨てて溺れたいよ

申し訳なさに押し潰されながら

抜け出せない愛の罠


戯れに抱きつかれた日

身体も君に囚われた

甘い声が僕を離さない

ずっとそばで聞いてたい


どうして誰もが咎めても

この気持ち止められないのかな?

自分でも自分を許せないのに

視線は君を追うばかり


I wanna 好きになれないのはそのハートだけ

五感の全てが君を欲す

獣のような自分が嫌になる

深く刺さった愛の罠


いつか辿り着きたい 君の味


「…うーん」

百衣は首を傾げた。

「この掛詞は面白いけどさ。

 これって私のイメージ…かなあ?」

もっと直裁的な苦言をぶつけてこないだけ、彼女も成長したのかもしれない。

「まあ、たしかに清廉とか可愛らしいとか、キラキラした感じではありませんよねえ。

 でも、だからこそ色々と割り切っちゃってる僕からは出てこない文章だから、いいとおもいますが。

 あんまりうちはこういう曲!って最初から範囲を狭めちゃった方が、取れるファンの幅も狭まって、作る側としてもネタ切れが早そうで後々大変になりそうですし、売れてる人は色々歌ってるもんですよ?」

「そうだけど…」

「言わんとすることはわかるよ。

 百衣のイメージからすれば泥臭いし、かといって斬新でも名文でもないわな。

 でも、百衣がもっと良く書き直せる訳でもないよな?」

「まあね…」

「つまり、うちに名作曲家はいても、名作詞家はいないわけだ。

 かといって、外注したら金がやばいだろ。

 『20歳』の印税で、最低限の生活が2、3ヶ月できるかなってレベルだもんな。

 でも、大丈夫。

 だって、ヒット曲は全部、歌詞を単独で見た場合でも、いいと思うか?」

「そうでもない…か。

 下手すれば意味わからないのもある」

「だろ?

 もっと言えば、タレントの企画物やアイドルでもないのに百衣より音痴で声も悪いのもいれば、俺たちより演奏下手なのもいるよな。

 ということは、トータルなんだよ。

 詞の足りなさは俺のPV監修と…


 百衣への歌唱演技指導で補う」

「歌唱演技指導?!」

「まあ今は顔を出さずに、PVも絵にして歌声と楽曲の力だけで勝負する人も多いけどさ。

 うちにはせっかく百衣の可愛さがあって、」

「えへへ、ありがとっ」

「姿を出してるからには表情と仕草でも勝負できるんだから、それを使わない手はないよ。

 俺の指示通りにやりきってくれたら、もし全然売れなかったとしても、どんなに時間をかけてでも、僻地の営業だろうが路上販売だろうが、俺の手でCD累計5万枚は売ってやる」

「す、凄い意気込みだね

 …そこまで言うなら」


次の日から事務所での練習を始めた。

「『好きになれないのはそのハートだけ』の部分は、もっともどかしそうに。

 『深く刺さった愛の罠』の部分は、脚をさすりながら、もっと痛そうに」

「スパルタだなぁ…

 でも、アイドルのプロデューサー並みに指導がしっかりしてるねぇ。

 そっちもやったら?」

「バカ言え、お前だからこんだけインスピレーション沸くんだよ」

「それってどういう…

 やっぱり、私が特別可愛くて才能ある♡からぁ?」


「…そうだよ!」

「えっ」

「だからスパルタおじさんは他の人の指導には行きません、ずっと百衣に付き纏います。

 残念でしたね、二人きりでレッスンする相手が大好きな伊織じゃなくて!」

「…別にいおりんが好きなわけじゃ…」

「じゃあ初回のラジオのあの発言はなんだよ!

 それ以外でも何かと伊織の方を真面目だのなんだのと持ち上げるじゃんか!

 あれか? 真面目そうな伊織が好みって言えば好感度が上がるからか?」


「ひどいよ〜!

 だって、レンレンは知らないだろうけど

 …私と組めって言われた時、いおりんは物凄く抵抗したんだよ。

 裏方がやりたい。自分のことで精一杯なのに百衣さんの言動をサポートするなんておこがましい、って。

 でも、私はこんなだから…嫌う人には攻撃されるレベルで嫌われるタイプだから、形だけでも男性メンバーがついてた方がいい。

 で、折角入れるなら作曲者の人の方がバンドの世界観に説得力が出るじゃん。

 だから是非入ってほしい、もう一人調整が上手そうな歳上入れるからって説得して、やっと納得してくれたんだよ。

 だから精神的な負担をかけないように大事にする…ちょっとヨイショするぐらいでちょうどいいかなと思って。

 いおりんだって本気にしてないというか、ハナから女の子と付き合う気ないでしょ」

「そうだな」

「まあ、彼氏にするなら客観的にはいおりんみたいな人が一番だな、と思うのは本当だけど。

 でも、私のトーク力ではレンレンと比べて持ち上げるぐらいしかできなくて

 …レンレンは喜んで加入したから、ちょっとぐらい当たりが強くても大丈夫だと思って

 …そんなに怒ってるとは思ってなくて、ごめんね」


「いいよ。

 うーん、そうか、繭香も恐い目に遭ってたり、自分なりに気を遣ってたりしたんだな…

 好感度狙いとか言って、俺こそごめんな。

 ところで…

 ということは、主観的に彼氏にしたいのは違うタイプなの?」

「そうだね、レンレンだってこんな歌詞書くぐらいだからわかる感覚でしょ?」

「うん、でも俺がこんな感覚になる相手は女性な訳だから、女性からこの感覚を持たれるような魅惑的な男ってどんなんかなーと思って」

「それは…」

繭香は顎に細い指を当て、その潤った瞳で、俺の眼をじっと見つめながら考えこむ様子を見せた。

やめてくれよ

…また変な気になるだろう。

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