第3話
そうだ。ここには海しかない。ほんものの青をした、海しかない。
空と太陽と魚と――すべてが溶け合わさった海は複雑に色が絡んで、セロファンみたいに照り返しながらも、受け入れてくれる。海はだれにでも平等に、おだやかに厳しい。
「ちょっと、おとうさんっ! なにしてるの!」
大きな声にびっくりすると、おやじと同じフォルムをした中年女性が、ズンズンとこちらにやって来た。
俺たちのやや手前でぴたりと足を止めて、よそ行き用の笑顔をぺったりとその顔に貼りつける。
「すいませんねえ、おにいさん。うちの人、すーぐ人に話しかけるもんで」
女性はおやじの腕をむんずと掴んで引っ張り、強制退場させた。
おにいちゃん、またな。振られた手のひらはくっきりと白く、褐色の肌とのコントラストに、父親を思い出した。
よけいなもんしか残さねえな。
瞼をとじれば、潮の香りが濃くなった。肌も髪も、薄膜がかかったように適度に重たい。
このまま、眠っちまいたい。
瞼をひらいたときには船が止まり、落ちていく夕暮れのなかに十年ぶりの顔を見つけた。
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