親ガチャSSR転生って言ったよね!? え…俺が親を育てんの?
音喜多子平
第1話 転生 & 親ガチャSSR
気がつくと、俺はプラネタリウムみたいな不思議な光が包む部屋の中にいた。
「…なんだここ? 確か滑って転んで救急車に…病院じゃないよな?」
周囲には透明なパーテーションで区切られた謎のブースがずらりと並んでいて、老若男女が各ブースで座って何かを選んだり、腕に腕章を付けたスタッフのような人と話し込んでいる。
そしてスタッフと思しき人たちは、
「はい、魔界の竜王夫妻! ステータスオールSランク、見た目も若々しいです!」
「聖女と英雄の夫婦も残りわずかですよー!」
「大商人の跡取り息子! こちらは転生先が男性限定でーす」
などと大真面目に叫んでいる。
すると上の方にでかでかと『異世界転生先選考会場 ~もれなく親ガチャSSRオンリー~』と書かれた看板がある事に気が付く。理解が追い付かず呆然としていると俺は目の前の空きブースに腰かけていた女性スタッフに声を掛けられた。
「次の方、どうぞ。お待たせしました。えーと…不慮の事故死でお越しの
つらつらと俺のプロフィールが並べられる。何一つとして間違っていないので密かな精神的ダメージを受けつつも返事をする。
「担当女神のリゼルヤです。よろしくお願いします」
「はあ…」
女神と名乗った銀髪の女性がデスク越しににこやかに笑っていた。
「吉田様はこれから転生して頂きます。お好きなご両親をお選びください」
「転生…?」
そう、ここは【転生先の親ガチャ会場】らしい。
不慮の出来事で天寿を全うできなかった人間限定の天界サービスで、転生にあたり親を自由に選べるという、現世では絶対にできない夢のような特典を付けてくれるという。
転生先は魔法の西洋風ファンタジー、あるいは元の現実世界、中華風異世界、妖怪世界や魔界などなどより取り見取り。親は元より世界観まで選ばせてくれるという好待遇っぷり。しかもオプションで望めば現在の記憶まで保持できるという。
そんな説明を受けてから改めて転生先の両親の情報をタブレットで見せてくれた。
「どうぞ。どの親御さんもSSRクラスなのを天界の神々の名誉にかけてお約束いたします」
…ふむ。勇者や王族、大富豪の跡取りなど分かりやすい当たりから神獣や魔王の子、魔法特化の大賢者の息女なんてのもある。
確かにどの家も生まれた時点で人生ハッピーエンド確定の転生先ばかり。しかし急にこんなことを言われたこともあって俺はまともな思考ができないでいた。
でもどうせなら剣と魔法のファンタジー世界がいいな。こんな機会、もう二度と訪れる気がしないし。
しかし、ちょっと待ってほしい。
如何に家柄が素晴らしいとはいえ取捨選択の余地は大いにある。
例えば王族や貴族。これらは家柄としては立派だが常に勢力争いや覇権争奪など、キナ臭い厄介ごとが付きまとうイメージが強い。マナー教育とか安全上の理由で自由の確保ができない未来も見える。
他にも神獣や魔王の血縁として生まれるという選択肢。人に生まれるよりかは自由を謳歌できそうだけれど人間勢力と戦争をしたり、勇者パーティの討伐対象に選ばれたりする危険性がある。
ともすれば小金持ちの一般家庭に生まれるくらいのが、一番コスパが良いのではなかろうか。
そう思って俺はリストを嘗め回すように見入る。
「ん? 何だこれ?」
画面をスライドさせていると唐突に何かの漫画キャラのイラストに変わった。プロではなく素人が頑張って描いているようなクオリティの一枚絵が何ページも続いている。
すると目の前の女神が「あっ」と声を上げてタブレットを取り上げてきた。そして狼狽しながら弁明をしてくる。
「あ、す、すみません。私が描いたイラストが…」
「え? 自分で描いたの?」
「しーっ! 大きな声を出さないでください。上にバレたら怒られるんです。業務用のタブレットを私物化してたら」
「…」
なんか急にきな臭さが増したな。大丈夫か、この人…いやこの女神。
しかし担当を変えてくれ何て言える雰囲気ではないし、流されやすい俺は見て見ぬふりを決め込む。いつか大事にならないことを祈っておく。
「お」
そうして再びリストをチェックし始めたとき、一組の夫婦が目に留まったのだ。
◆
父:ヴェン・モンスモール(18)/ 元剣士 / 人間 / ステータス:力(測定不能) 敏捷(測定不能) 魔力(測定不能) 耐久(測定不能) 知力(測定不能) 精神力(測定不能) 運気(測定不能)/ モンスモール家の御曹司、宝剣アレクサンダーの継承者
母:クリス・モンスモール(16)/ 元魔導士 / 人間 / ステータス:力(測定不能) 敏捷(測定不能) 魔力(測定不能) 耐久(測定不能) 知力(測定不能) 精神力(測定不能) 運気(測定不能) /旧姓・ビクアリオ(大商家の三女)、神々の禁書の所持者
総資産:800,000,000グリー
◆
俺は無性にこの二人の事が気になってしまった。
かなり若い夫婦だな。俺のいた世界で言えば高校生カップルじゃねえか。それでも肩書とステータスは土下座レベルだ。ステータス測定不能ってチートもいいところ。
気になるのは二人とも職業に「元」とついている事だが…。
「そちらのお二人は…結婚の為に一旦、職を手放したようです。生活が落ち着いたら戻りたいと考えてはいるようですが」
「…夢があるのに結婚してんですか? できちゃった婚とか?」
「そうではなくて親同士が決めた許嫁のようですね」
「え? それは無理矢理って事ですか?」
好き同士でない夫婦の間に生まれるとか、金持ちでも嫌だぞ…。
「いえ。子供の頃は抵抗があったみたいですが、年齢を重ねるにつれて互いを理解し合って結婚する際には相愛だったと情報がありますよ 」
「マジか。ますますいいな」
互いが好き合っているなら家の中がギスギスすることはないだろう。それぞれ剣士と魔導士を志すって事は腕に覚えがあるって事。あるいは俺がある程度成長したら剣術と魔法を教えてもらって親子で旅に出る、なんてこともあるかもしれん。
いずれにしても王族貴族とかよりは自由が利きそうなイメージがある。
その上、才能もチート級で両方とも資産家の子供。800,000,000グリーってのよく分からんが、こういうのは基本的に1グリーが1円みたいなのがテンプレだろう。そうすると、現時点で資産が八億円あるってこと。
両親に愛はある、才能もある、若さもある、金もあるし、自由もある。なにこの完璧セット。
まじで親ガチャ大成功だ。
「ここ。この二人のところがいいです」
「わっかりました。最後に前世の記憶はどうしますか? 持つことも無くすこともできますが…」
「記憶がなくなるのと同じですよね。何か怖いし…せっかく異世界に転生できるんなら一応の現代知識は持っておきたいなかな」
「畏まりました。記憶は保持したままで…と。では早速手続きしちゃいますね」
「よろしく~」
◆
そんな呑気な返事をした次の瞬間、突如として目を開けていられないような閃光に包まれる。
気が付いた時にはベッドの上で見知らぬ天井を見上げていた。どうにかこうにか手足を動かそうとするが全部が短く小さい。しゃべろうとしても声が上手く出せず、むぐむぐと唸り声がでるばかりだ。
すると目の前にメッセージのような画面が現れた。
『転生完了。状態:新生児(生後一日目)』
…どうやらあの短時間で転生が無事に完了したらしい。ということはここが俺のこの世界での生家という事か。
頑張って首を動かして周囲の様子を伺う。ベビーベッドのようなものに寝かされているらしいが、首を振るだけで精いっぱいだ。生まれて間もないのだから仕方ないけど。
ぼんやりとした視界のピントが次第に合ってくる。そうして目の当たりにした俺の家は…ボロくね?
比喩とかじゃなくマジで掘っ立て小屋みたいなところなんですけど。全体的に埃っぽいし天井の隅には蜘蛛の巣が張っている。衛生的にも心配だ。家具も全体的にすすぼけていて騙し騙し使っている感が凄まじい。
何だか嫌な予感が地の底から徐々に滲み出てきた。
「あら…ヴェン! シモンが起きたわ」
その時、とても優しい声音が聞こえた。ドタバタとした気配の後、ベットを覗き込むように二人分の顔があった。うら若き乙女のような女の子と若干のあどけなさの残る青年だ。
それはまさしく、あの妙な空間で見た親ガチャSSRリストのモンスモール夫妻だった。
一瞬、何かの手違いで別の家の子になっちゃったんじゃないかなんて過りもしたが、どうやら転生にミスはないらしい。しかし…実物を見るとやっぱりとんでもなく若いな。
あと呼ばれてようやく気が付いた。俺の今生での名前はどうやら「シモン」というらしい。まあ悪くはないかな。
「いやあ目がクリクリして可愛いわぁ」
「間違いなくクリスに似たんだねぇ」
と、二人は親バカ全開のアホ面をさらけ出してくる。
家の様相が貧乏くさい事を除けば大方の想像通りの展開だ。
しかし。
事態は一気に急変する。
家の玄関が突如として乱暴に蹴破られたのだ。
ドガァンッ!!
「ちょいとぉおお! モンスモールさんよぉ!? 約束の支払い、どうなってんだぁ!?」
明らかにヤバい声があばら家に響く。怒鳴り声というより、怪獣の咆哮だ。響く音量と野太さに姿を見たくても反射的に反社的な人だと察した。
わざとらしく大きな音を立てて入ってきたのは大きな体に毛皮のコートを羽織った、取り立て屋を絵に描いたような男だった。ゴテゴテのアクセサリーがガチャガチャ鳴ってる。目つきも鋭く、どう見ても堅気じゃない。
「あら? お客様ですか? 汚いところですが、どうぞ」
と、母のクリスがまさかの笑顔で応対を始めた。決して煽ってる訳じゃない。心底お茶でも出してもてなそうとする雰囲気が出ていた。
大して父のヴェンは一気に顔色が青ざめる。
「え? いや、ちょっと…その、まだ…っ!」
狼狽がモロに声に出ちゃっている。
なにこれ、もしかしなくてもマジで借金の取り立てだよね? 八億グリーの総資産は!?
二人とも名家の御曹司とかじゃなかったの!?
「まだ? あのねえ、モンスモールさん…言ったよな? 今月分は土下座に免じて許してやるが、来月は倍払えって。わざわざ王都からこんな辺鄙な村にまで来てるんですよ? いい返事を聞かせてもらえるんでしょうねぇ? 約束が守れねえなら…それ相応の事をさせてもらいますよ?」
ギラリと光る目が俺と母の事を舐めるように付きまとう。人身の売買とかをお企てちゃってる目じゃないですか!!
やめろ、やめろやめろ、その視線を俺に向けるのをやめろ!!!!
「ちょ、ちょっと待ってください! 今、ちょうど討伐の依頼も入ってて、それが成功すれば返済のメドが…」
「へぇ〜? あんた、剣とか振れるの?」
「…」
お父様!? 何で黙るの? ステータスが測定不能なんでしょ? 討伐のクエストくらい余裕といってくださいな! というか目の前のチンピラくらい指一本で吹き飛ばすくらいの事をしてくれてもいいんでございますことよ!?
「ま、いいや。最終勧告だったから。次に来る時までにせめて利子くらいは払ってもらりゃ」
「もちろん!」
「ただしぃ! 次も同じような事を抜かしやがったら…分かってるよね? 奥さんに割のいい仕事紹介しなきゃいけなくなるから、そのつもりで」
「…はい」
父、返す言葉なし。
俺、叫びたかった。むしろ叫んだ。
「話が違うだろ、女神ぃぃっ!!!!」
もちろん、実際には「バブー!」と泣き声が漏れただけだったけど、心の中ではマジで怒号を叩きつけていた。
そしてその瞬間、さっきのステータス画面のようなものが現れ「アフターサービス受注完了」の文字が。天井にぼんやりと光が差し、空間がぐにゃっと歪んだかと思えば…。
「はい。お呼びですか、吉田様…もといシモンくん!」
現れたのは、俺の担当とか抜かしてた女神リゼルヤ。
文字通り時間が止まり、セピア色の空間において唯一俺と女神とが会話ができる状態になっていた。
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