第3話 あいつにゃ負けねえ! 体育祭
「えっ…
…ええーーーっ!
無理やり選ばれたんだしどうでもいいやと思ってたけど、気が変わったわ!
絶対負けたくねーっ!」
「応援するわ」
「へえ、意外、朝光ならクラスを応援するのが正義! って言いそうなもんなのに」
「そういえば、今までなら絶対そう言ってたなあ…」
「まあ、日下って、バカでだらしなくて屑なんだもんなあ。
初対面の俺に、ものの数分でそう解らせるとか、逆に才能だぜ。
あんなん正義の人が応援するわきゃないか」
そう…なのかな?
日下の鼻を明かして欲しいから応援…?
「でもあいつ、脚だけは速いんだ」
「マジ?
あー、そういやあの時、逃げ足速かったな。
俺、タバコやめてちょっとはスタミナついた実感はあるけど、それでもあんま自信ねーんだよね。練習するか」
「勉強も大変なのに、そんな細い身体で無理しないでよ?」
「あー、たしかにあんま時間もないしなあ。
どっちかの家に勉強しに行く時に走るか」
「そしたら私追いつけないじゃん」
い、いや別に…
バラバラに行ってもいいはずなんだけど。
「あー、そっか。
じゃあさ…
朝光おんぶして走るわ」
えっ…
えっ?!
次の日
「よし、ここまで来たら学校の奴はいないな。
よっこらしょっと」
「ちょ、ちょっと待って
…その持ち上げ方だとスカートの中が見えちゃう」
「マジか! ご、ごめん。
…ところでさ、前から思ってたんだけどさ。
まあ、今はあったかいからわかるけど、
なんで女子って、うちの制服ってスラックスもあるのに、冬でも大体スカートなの?」
「そりゃ可愛くみられたいからじゃないの?」
「まあ、一般論的にそうなのはわかるけど
…朝光もそうじゃん?」
えっ。
寒い頃から私のこと知ってたの。
そんなに『御奉行様』は目立つかな?
…いや、そんなことよりも。
悪意はないのかもしれないけど…
『真面目ちゃんらしくもない感覚だね』
『彼氏も友達もいないのに、なんで可愛く見られたいの?』
なんだかそんな風に言われてる気がして…
「えっと、それは
…月影くんに可愛く見られたいから!」
「えっ」
「…って言ったらどうする?」
「な、なんだよ、びっくりさせんなよ!
そうだよな、それじゃあ友達になった時系列的におかしいもんな!
でも、ああ、もしそうだったら?って話か。
だったら
…光栄ですね」
…えっ!
あっ、でも、そうだった…
この人、たまに女子とほっつき歩くぐらいだから、こんな会話は慣れっこの筈だ…
都合よく考えちゃダメだ。
「さてと、これで大丈夫?」
「う、うん」
月影くんの方が大丈夫かな?
私と10キロも変わらないかも。
でも、男子って細くても
…背中は広いんだなあ。
月影家
「あー、全身いてててて」
「大丈夫? 私、重かった…?」
「や、171㎝50㎏の俺が悪い」
「軽っ!」
「情けねー、無理したなぁ」
「じゃあさ、えっと
…マッサージしようか」
「助かる」
「うわっ、カッチコチ」
「こんなに固くなっちゃって、恥ずかしいな」
「いま楽にしてあげるからねー」
「あっ、あっ、きもちい…ふーっ!」
ガチャッ
「あんたたち! なにしてるの!」
「なんだよ、母ちゃん。
リレーの練習の後だし、別にいいだろ」
「な、なんだ…」
「バッカじゃねーの?
ほんとに母ちゃんが思うようなコトしてるんなら、大声出す訳ねーじゃん!」
「そ、それもそうね…
じゃあこれ、お腹空いたら食べてね」
「じゃこ天だ」
「まったく、いっつも、じゃこ天とか昆布とか小魚とか…
男しか育てたことない親はこれだから!」
「でも身体にいいよ?」
「まあ、たしかに太らないのはありがたいけど
…可愛く見られたい朝光なのに、可愛くないおやつばっかりでごめんな!」
えっ…
「い、いいよ、ご家庭の方針だし!
ところで、体育祭のお弁当もこんな感じ?」
「いや、それだけならいいんだけどさ。
…弁当のおにぎりって激まずくね?」
「えっ、そうかな」
「おにぎりの水分で他の具も海苔もべっちゃべちゃじゃね?
しかも石鹸の味するし。
でも、手作りお弁当には愛情がこもってるって言うし、さすがに作るなとは言い辛いよな。
作りたてのおにぎりは美味いのに、時間経過でどうしてもああなっちゃうもんなのかなあ」
「えっ?
それって、おにぎりが仕切りもラップやアルミホイルもなしで他の具と一緒に弁当箱に入ってて、海苔は最初から巻いてある状態?」
「…そうだけど」
「大丈夫!
おにぎりを何かで覆うか隔離するかして、海苔は後で貼ることにすればそうはならない!
ラップの上から握ったら、手を洗っても石鹸の匂いもつかないし!」
「そうなんだ!
じゃあ、俺ももう大きいんだからって言って、おにぎりは自分で作ろうかな。
今更馬鹿正直に言って、わざわざ母ちゃん傷つけることもないし」
「へえ、なんだかんだお母さんに優しいんだ…
どうせなら全部自分で作ったら?」
「それもそうだな。
そのぶんだと朝光は全部自分で作ってるんだな、すげえわ」
体育祭当日
「ひゅーっ!
ふたりっきりで弁当を食いまーす!」
「うるせえぞ日下。
これは朝光が教えてくれた頭脳弁当だ」
「なんだ、その頭脳パンみたいな…」
「弁当を美味く作るにも頭脳が必要なんだよ。
つまり、これは家庭科の勉強会の一環だ。
役に立てない馬鹿は去りな」
「ちきしょーっ!
リレーの時は覚えてろーっ!」
ピューッ!
「…でも、本当に俺と食うんでいいのか?」
「もちろん。
寧ろ、毎年親と食べて心配掛けてたから」
「そうか…
俺みたいなのでも友達いるだけ安心か…
そりゃよかった」
「それでは最終種目、選抜リレーです。
よーい、どーん」
あっ、やばい…
うちのクラスの方がちょっと速いまま、最終走者に行っちゃった!
やっぱり日下の方が速いよー
…あっ、だけど!
月影くんの士気がすごい!
なんかものすごい黒いオーラを放ってる!
日下が気圧されて必死の形相で逃げてるー!
「一位、1組。
二位、2組でーす」
「チッ」
だ、だけど…
日下、一位なのになんか死にそう…
月影くんは試合に負けて勝負に勝ったと言えるかも。
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