07.どりょくのたまもの

視線を合わせて、笑顔を浮かべて、程よい会話を並べて、相槌を打って。

決して話しすぎず、黙りすぎず、心地よい空気を淀ませず。

それができればどんなによかっただろう。

違う、できるための努力をしていないだけだ。


なんの言葉も浮かばず、気味の悪い笑い声が私から溢れ、相手が気を遣って苦笑いをした。

罪悪感に駆られるもそんなことを表に出す暇はなく、会話は次へと移り変わる。

いつも一つも二つも遅い。だから、私はどこまでも不出来なのだと思い知らされる。

だから、皿に取り分けるか否か、そもそももうお腹が一杯だろうか、そう考えているうちの他の人がその役を肩代わりする。


 でも、やらないのなら、同じ。やった人が正しい。


アルコールを流し込んで、少し思考が鈍くなった頭は微かな眠気を呼ぶだけで、楽しさを生み出してくれるわけではない。むしろ、あぁ、これが酔いかと感じるだけだ。

グラスが変わって満たされて、汗をかいて、机に歪んだ円を描く。それを使っていないお手拭きで拭き取ることはできた。でもそれだけだった。


きっと、彼は、彼女は、自分とは違うのだ。

違う、彼は、彼女は頑張ったんだ。

そうだから、私が悪い。

それだけ、だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る