新しい趣味(中辛)

最近、父が新しい趣味を始めたらしい。

週末になると、早朝から一人で出かけていく。何をしているのか尋ねても、「まあ、ちょっとした楽しみだよ」としか教えてくれない。

ただ、帰ってくるといつも、服のあちこちに泥がついていたり、手や顔に小さな引っかき傷を作っていたりする。そして、どこか満足そうな、でも少し疲れたような表情をしているのだ。


母は少し心配しているようだが、父は「大丈夫、大丈夫。運動不足解消にもなるしな」と笑っている。

確かに、以前より顔色も良くなったような気もする。


先週の日曜日、父が出かけた後、私は父の部屋を少し覗いてみた。

机の上には、街の大きな地図が広げられていた。そして、その地図のあちこちに、赤いバツ印がいくつもつけられている。公園、河川敷、昔あった工場の跡地…。バツ印の場所には、特に共通点も見当たらない。


そして、地図の隅に、小さなメモが挟まっていた。

そこには、震えるような文字で、こう書かれていた。


「次は、あの子が一番好きだった、あの丘の桜の木の下だ」







解説


ねえ、お父さんの「新しい趣味」、一体何なのかしら。

週末に泥だらけになって、引っかき傷まで作って帰ってくる。そして、地図に付けられたたくさんの赤いバツ印。


お母さんは「運動不足解消」と納得しようとしているけれど、本当にそれだけかしら。

そして、あのメモ。「次は、あの子が一番好きだった、あの丘の桜の木の下だ」。

「あの子」とは誰のことでしょう。そして、そこで一体何をしようとしているのかしら。


もし、お父さんの趣味が、何かを「探す」ことだとしたら…?

そして、その探しているものが、過去に失ってしまった、大切な「何か」だとしたら…。

赤いバツ印は、もう探し終えた場所? それとも、見つからなかった場所…?


「あの子が一番好きだった場所」へ向かうお父さんの背中を想像すると、その「趣味」の本当の意味に気づいて、少しゾッとしてしまわないかしら。

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