第15話

「入るよー」


「おー」


「次の歌ってみたなんだけどさあ……今日は何描いてんの?」


「俺が一番聴いてるASMR配信者の癒し系お姉さん、上下左右かみしもさゆうさんだ」


「……えーと、ん? ああ、バーチャルの人?」


「そう。寝る前に聴くとよく眠れるぜ」


 朝までぐっすりよ。


「信者が聞いたら憤死しかねないね」


「この部屋に盗聴器とか無いのは分かっちゃいるが」


 怖いこと言うなよ。


「バーチャルYtuberか……偏見なんだけど、なんか、尖ってる人が多いってイメージがあるなあ。この人も?」


「いんや? この人はASMR配信がメイン。たまに飲酒雑談するぐらいで、尖ってる人ではないよ。お酒入ると下ネタ垂れ流す下品ないやらし系お姉さんになるけど」


「ちょっと上手い事言ったみたいな顔しないでよ鬱陶しい」


「すいません」


 厳しい。


「えーと。上下左右……」


 弟がスマホをポチポチし始めた。


「あ、すごい。ASMR配信メインで登録者三十万超えてるんだ」


「そう、この前六年目迎えてるんだけど、地道にコツコツやってきた凄いお人なのだ」


「六年。そりゃ凄い。……僕等も頑張らなきゃね」


「ああ。で、まあ、ASMR配信のサムネイルを新しく募集してたからじゃあいっちょ描くか、と思ってな」


「いいんじゃない。兄さんの絵なら喜ばれるでしょ」


「だといいんだが。他の絵描きさん達も描いてるから選ばれるかも分からん」


「でも描くんでしょ」


「もちろん」


 さて、どういう塗りにするかな。やっぱ癒し系だし淡い感じに……。











「んんんんんんんん」


 あたまいたあい。飲み過ぎたああああ。いたいよおおおお。もうやだああああ。おさけやめるううううう。やだああああ。やめたくないいいいいい。


 うんうんうなりながらベッドからはいずりだしてテーブルの上にあるペットボトルを掴む。飲もうとして中身が入ってないことに気づいて、んー! とうなり声とともに投擲。さらに這いずって冷蔵庫へ。


「み、みず……」


 冷蔵庫を開けて……あった。乱暴にひっつかんで蓋を開け豪快にラッパ飲み。


「げほー!」


 盛大にむせた。だが少しだけすっきりした。まだ頭が痛い。


「ふひー……」


 痛む頭を抱えながらパソコンの前へ。日課のSNSでのタグ巡り。今日の活力。


「あ、豚山先生描いてくれてる……やったいたたたたた」


 配信にちょくちょくコメント残してくれているからワンチャンあるかもって思ってたけど。


「他の絵師さん達には悪いけど……」


 今回は豚山先生の絵をサムネにしよう。嬉しいなあ……お酒飲んじゃお。


 次の日、さらにひどい二日酔いになって配信を休んだ。何やってんだ私は。











「ありゃ、今日は休みか……なんかあったのかな。しょうがない他の人のを聴くか……」


「ASMRにはまりすぎじゃない?」

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