第13話

「いやあ、ASMRの反響凄いねえ」


「ちょっと凄すぎるわ。なんでこんなに」


「みんな疲れてたんじゃない?」


「うーん現代社会の闇」


「ASMR配信、これからもちょくちょくやろうね」


「ちょっと怖いがまあ、そうだな」


 そんなに需要が有るならやるべきだろう。実は次のネタ、一個だけ思いついた……というか見つけたのだ。


「ところで兄さん、英語の勉強はかどってる?」


「いやまったく」


 俺、見た目があれなだけで中身は凡人だからね。


「元々海外の視聴者多かったけど、さらに増えてきたからねえ」


「ちょっとした挨拶ぐらい出来た方が良いよな」


「兄さんって意外とサービス精神有るよね」


「……まあ、喜んでもらえるのは嬉しいからな……画面越しってのもあるし」


「そうだね、画面の向こうなら何も出来ないからね」


「ああ……そうだ、今度久しぶりに南と近本ウチに呼ぶぞ」


「そうなんだ。まあ、夏休みだからね」


 そう、ひきこもりの俺には関係無いが世間では夏休みなのだ。


「てことは、白上さんと新発田さんもこっちに来るね」


「あいつら、二人に迷惑かけてないだろうな」


「中川さんに聞いたけど最近は、というか兄さんが配信始めてから近づく奴あんまりいなくなったってさ」


「ならよかった……晃、あいつらと話してんの?」


「ん? うん。兄さんが絡まなきゃ割とまともだからね。まあ九割がた兄さん絡んでるからまともじゃないけど」


「あんまり関わるなよ」


 あいつら勝手に俺等の護衛してるけど、どう考えてもヤバいからね、やってる事。


「まあまあ、一応兄さんの貞操の恩人なんだから」


「……それでもだよ、それに今はちゃんとした警備の人もいるんだから……あいつら警備の人達に迷惑かけてないよな?」


「……あー」


「何か聞いてるのか」


「いやまあ、その、協力、するんだってさ」


「はあ?! ……あっそうか、じいちゃん言ってたな、五人は配置したかったって。人手が足らないのか」


「みたいだね」


 なんてこった。ストーカーどもと協力って……。ストーカーどもに釘刺しといたほうがいいかなあ。でもあいつらと会いたくないなあ。目が怖いんだよ……。


「あー、兄さん、僕から中川さんにちゃんと協力するよう言っとくから。心配しないで」


「……すまんがそうしてくれるか」


「うん」











「松田さん」


「はい、どうされました晃坊っちゃん」


「自販機行くからちょっとついてきてもらっていい?」


 自販機? どういうことだ? 買いに行く必要は無い……あー。


「わかりました。少々お待ちを」


 耳の通信機をオンにして梅下に後を頼む。


「大丈夫です。行きましょう」


「悪いね」


 家から出て近くの自販機へ。しばらく歩いてから晃坊っちゃんがおもむろに口を開いた。


「中川さん、いる?」


「はい、おります」


 くそ、やっぱりどこにいるかわかんねえ。


「兄さんがね、心配してたよ。ちゃんと松田さん達と協力するのかって」


「銀一様に御心配をおかけするとは、不覚。ですが協力体制は取られつつあります。今しばらくお待ちください」


「松田さん?」


 おっと。


「ええ、まあ、彼女達は協力的ですよ。色んな意味で力もある。こう言っちゃなんですが頼もしいもんです」


 自販機に着いた。晃坊っちゃんがミネラルウォーターを買う。


「そう、ならまあ、安心、かな?」


「はい、お任せ下さい」


「初めはどうなることかと思ってましたが、まあ、なんとかなりそうですよ」


「なら兄さんに心配することは無いって言っとくよ」


「ありがとうございます」


 晃坊っちゃんも大変だなあ。こいつらの手綱取ってる晃坊っちゃん、ちょっと楽しそうなのがよくわからんが。


 家に着いた。


「じゃあね中川さん」


「はい」


 駄目だな、いついなくなったのかもわからねえ。


「可愛いよね、中川さん」


 は?


「ちょっとよくわかりませんが」


「ふふ。まあ、ありがとね松田さん」


「いえ」


 ……晃坊っちゃんも晃坊っちゃんで変なお人だなあ。

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