第9話

「うーん」


 からあげウマー。やっぱカーチャンのからあげは日本一やな!


「あからさまにうならないでよ」


「すまん」


「で、なに?」


「バイノーラルマイクどれ買おうかなって」


「黒耳じゃないの?」


「三十万するじゃん」


「兄さんの声を最高の音質で聴きたいからって高級な音響設備整えた人結構いるんだからこっちもそれに応えるべきだと思うよ」


「いや、それ言ったら百万超えるダミーヘッドのやつになっちゃうじゃん」


「それもいずれ買うべきだよ」


「まじかよ」


「まじだよ」


 お、おう。弟がまじだ。


「なんでそんなに」


「だって買えるじゃん」


 そうなんだよなあ。買えちゃうんだよ。明細見てびっくりしたわ。


「逆になんで兄さんは躊躇ってるのさ」


「自分でもよくわからん」


「んもー」


「……黒耳買うか……」


「それが良いよ」


 はあ。からあげウマー。











「松田」


 ん? 交代の時間には早いが。


「どうした大竹?」


「親衛隊から通話が来てお前を呼んでる」


「ああ、どんな協力体制とるかの打ち合わせだな。別に俺じゃなくてもいいんじゃないか?」


「接触は最小限にしたいんだと」


「俺、窓口になっちまったのか」


「みたいだな」


 じゃあしょうがねえ。行くか。


「少し早いが後は頼んだ」


「おう」


 離れに入りパソコンの前に座る。サウンドオンリーの通話アプリ。


「すまない、待たせたか?」


「……構わない。職務を遂行していたのを邪魔したのはこちらだ」


「まあ、仕事だからな。真面目にやってるさ。で、あの時もう少し待てと言われてこの連絡先を貰ったわけだが?」


「こちらの意思の統率がとれていなかったのは痛恨事だった。申し訳ない」


「構わんさ。そっちにしてみれば俺達はぽっと出だからな。だが連絡してきたってことは……」


「ああ。こちらの意思はまとまった。協力しよう」


 ふぅ。良し。敵対は避けれた。


「そいつは重畳。んで、やり方だが……」


「我々はプロであるあなた達の邪魔をする愚を犯すつもりは無い。そしてあなた達の指示にある程度までなら従う」


 ある程度、ね。それが怖いんだが。


「そうだな……俺達が一番困ってるのはあんた達なのか不審者なのか分からないってことなんだが」


「識別か。……ふむ。不審者は持っておらず私達だけが持っている物がある。後でサンプルを一つ渡そう」


 やっぱり顔見せてはくれねえか。


「分かった」


「……分かっている。姿を見せない者に信頼はおけないだろう。サンプルを渡す時に私の顔を見せる。私だけで許してくれ」


「お、おう。いや、無理なら無理でいいんだが」


 そんな声で言われると困るぞ。


「ありがとう。それでも少しずつでも信頼関係は築くべきだ」


「そうか。ならまあ、また後で」


「ああ、それでは」


 通話終了。


「ふぅ」


 なんというか。意外と、可愛げがあるな。やってることはひとつも可愛くないが。晃坊ちゃんに聞いた限りじゃまじで可愛くない。というか怖い。


 不審者っぽいのがちょっと目を離した隙に靴片一方残して消えたとか。


 悲鳴が何故か上に向かって消えていったとか。


 そもそも不審者っぽいのが目に入らないようにしているらしいとか。


 くわばらくわばら。











「どうも高い買い物苦手っぽいな俺」


「慣れて」


「あ、はい」

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