第7話
「次はなにやろうか?」
「まったく思いつかないんだが」
腕を組んで天井を仰ぎ見る弟。
「うーん。他のYtuberさんだったらコラボとかするんだろうけどねえ」
「そんな無茶な」
「だよね。まあ、歌ってみたは需要あるから月一くらいで出すとして」
「そんなに」
せっかくだからちゃんと練習したいんだが。
「そうだなあ、またなにか朗読する? 童話とか」
「……歌ってみたと朗読を交互に月一でやるか」
「いいね。それはやるとして…それ以外だね」
「んー、例えば、俺がやったら面白い事ってなんかある?」
「兄さんがやったら面白い事か。そうだなあ。……兄さんって何やらせても美しくなっちゃうんだよなあ」
「……面白くないってこと?」
「面白いよりも美しいが先にくるってこと。多分漫才でボケても美しいと思う」
「ええ……」
「つまづいて転んでも美しかったからね」
「どうしろってんだ」
「どうしょうもないよ」
はあ。ほんとどうしたもんかね。
「そういや企業案件って来てないわけじゃないよな」
「父さんとじいちゃんに全部まかせてるよ」
「父さん帰ってきたら聞いてみるか」
「そうだね」
で、夕食時聞いてみたわけだが。
「今のところ全部却下だ」
「ありゃ」
「お前が宣伝すると効果が高すぎる。特に転売がな」
「あー」
転売は駄目だ。なんなら転売ヤーは嫌いですって動画を出してもいいくらいだ。出さないけど。碌な事にならん。転売ヤーが死にかねん。
「じゃあどうしようかなあ」
「なんだ、もうネタ切れか?」
「うん」
「じゃあ視聴者に聞いてみたらどうだ」
「うーん、怖いけどそれしかないかー」
というわけで140にやって欲しい事を募集する投稿をしたらえらいことになった。当たり前だな。
やって欲しい事が大量に来たわけだが、そのなかでもとりわけ多かったのがASMRだった。馬鹿野郎。専用のマイクいくらすると思ってんだ。……いやまあ無事収益化通ったのでおかねが振り込まれれば買えるけどさあ。男のASMRってそんなに需要あるっけ? あるんだろうなあ。正直前世でも今世でも女性のASMRしか聞いたことないからわかんないんだよな。
因みにASMRの次に多かったのがシチュエーションボイスである。挨拶だけじゃ満足できないらしい。流石の弟でも台本は書けないとのことだったので誰かに頼むかって言ってたが、誰に頼むんだろうか。不安だ。
……裸を見せてくださいとか他にも色々欲望全開の奴もいたがさすがにスルーだ。
☆
ドアを三回ノックノックノック。
「どうぞ」
「はいるよー」
ガラガラー。
「これは、晃さん。お呼びくださればこちらから出向いたものを」
「いいよ、お願いがあって来たからね」
「お願い、ですか。私達に出来ることならば何でも」
「兄さんの為なら?」
「はい」
真っ直ぐだね。火傷しそうだ。
「140見たと思うけど次の動画のネタはシチュエーションボイスにしようかと思ってね。台本を頼みたいんだ」
「……よろしいのですか? 我々で」
「君等ならちゃんとした仕事をしてくれると思ってるけど?」
「必ずご期待に応えることをお約束いたします」
「うん。兄さんを困らせないようにね」
「はい」
……不安だ。でもなあ、兄さんに狂ってる奴等の中で一番ましなのがこいつらなんだよなあ。
ま、もう頼んじゃったんだ。どうにでもなーれ。
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