美しさは罪って言うけどちょっとやりすぎです神様

瑪瑙江 丹後夫

第1話

 神様の手違いで事故死した俺は記憶を持ったまま転生することになったわけだが、神様になにか希望はあるか? と聞かれ、じゃあ美形で美声で歌と絵の才能ください。って言ったら謙虚な奴だな。じゃあおまけで裕福な家の子にしてやろう。と言われて生まれ変わった。


 そして中学卒業と同時に引きこもりになった。


 なんでかって?


 美形過ぎたし美声過ぎたんだ。


 俺の顔を見て声を聴いた奴の80パーセントはファンというか狂信者というかストーカーになった。


 残りの15パーセントは誘拐未遂犯になった。なんで未遂かって言うとストーカーが病院送りにするからだな。5,6人に寄ってたかってボコボコにされる誘拐未遂犯はちょっとしたトラウマだ。シンプルに怖い。


 残りの5パーセントぐらいが俺の容姿と声に惑わされないでまともに付き合ってくれた(祖父母、両親と弟含む)。この人達のおかげで中学をぎりぎり卒業出来たと言っても過言じゃない。


 正直に言って、まともな生活が送れなくなるほどとは思ってもみなかった。神様、もうちょっとこう、手心というか……。


 そんなわけでこれ以上外にいたら人が死ぬと思った俺は高校に行かずに引きこもりになったわけだ。両親はさもありなんみたいな顔してひきこもりになることを許してくれたしね。めでたしめでたし。


 ……いいわけあるか!!! 俺、そんな悪いことしてないよねえ!? なんでこんな……!


 大体、一生親のすねをかじるのはなけなしのプライドが許してくれねえ。こうなったら内職でもするか、と色々調べてみたけどまったく人と顔をあわせないわけではないっぽいので碌な事にならなさそう。


 じゃあどうすっかな……と自室のパソコンの前でしょんぼりしながらネットサーフィンしていると弟が帰ってきた。まともに会話出来るというのは引きこもっていなくても俺にとっては貴重なので自室から出てリビングへ。


「おかえり」


「ただいま」


「学校どんな感じ?」


「兄さんが引きこもってるから死んだようなツラしてるのが何人もいる」


「……迷惑かけられてないか?」


「大丈夫、いまだに兄さんに怒られたのが効いてる」


「ならいいんだが……」


「それより兄さん、昨日内職やろうかなとか言ってたけど本当にやるの?」


「それがなあ、人と会わないわけじゃないみたいでな」


「じゃあやめといたほうがいいね」


「ああ」


 思わずため息。


「兄さんさ、もう外出るつもりないんだよね?」


「まあよっぽどの事が無い限りは」


「うーん」


「どうした?」


「兄さん、Ytuberにならない?」


「あれそんな簡単なもんじゃないだろ」


「なに言ってんだい、兄さんが顔出して喋るだけで金取れるよ」


「流石に舐め過ぎでは」


「少なくとも兄さんのストーカー連中は視聴回数ぶん回してくれるのは確実だよ」


「でもそれすると全世界に俺のストーカーが出来ないか?」


「今更過ぎない?」


 確かに。俺の容姿はかなり拡散している。芸能界から熱烈な勧誘もあった。両親が全部突っぱねたが。うちの両親、裕福なだけじゃなくてちょっとした権力もあるんだ。議員やってた父方の祖父の七光りだけど。引退したけどまだ政財界に顔効くらしいんだよね。じいちゃん。すげえや。


 Ytuberか。……でも機材とかどうしよう。マイクとかクソ高いんじゃなかったっけ。


「……機材とか……」


「父さんと相談だね」


「だよな」


 パソコン良いの買ってもらったばっかりなんだよなあ……。


 と、言うわけで夕食を食べ終わって食後のコーヒーを堪能している父さんに相談してみた。


「いいぞ」


「ええ……甘くない?」


「こう言っちゃなんだが、お前のファンに餌を与えないとどうなるかわからん」


「……与えたらおとなしくなるかな」


「お前を見て声を聴くのが生きがいになってた奴らにとっては死活問題だろうからな、本当に死にかねん」


 かもしれない。でも。


「この家のセキュリティ強化してくれない?」


「そうだな、新しいファンが直接会いに来るかもしれんな」


 勘弁してほしい。うちに直接来るのを我慢してる古参ストーカー達が何するかわかったもんじゃない。


「ま、機材に関しては気にするな。必要なものは買ってやる」


「うん……ありがとう」


 マジで感謝。


 さて、それから一週間。いろんなYtuberさんの動画やら生放送やらを観て勉強しながら届いた機材をセッティングしたりして。


「兄さん」


「いや、わかってる。うん。わかってる」


「もうあとはワンクリックで撮って編集した動画を投稿出来るのになに躊躇ってんのさ」


「いや、あの、うん、……怖い」


「なにが」


「わからん」


「んもー」


「あっ」


 弟にマウスを奪われ動画を投稿されてしまった。うう……。


「さ、晩飯食べよう」


「はあ……」


 しゃあない。賽は投げられたのだ。どうにでもなーれ。




 ☆




 我が救い主様の弟様から託宣があった。


 曰くYtubeにかのお方が動画を投稿なされると。


 福音であった。


 救い主様が玉体をお隠しになられた時に世界から失われた色が蘇るようであった。


 おお、世界とはこんなにも美しいものだったか!! 


 告げられた投稿日を一日千秋の思いで待ち、身を清めるため滝行を行い(風邪を引いた)、穀断ちを行い(親にはダイエットと称してサラダだけ食べた)、清廉な心身で投稿日を迎えた。









 気が付くと干からびるのではないかと思うほどの涙を滂沱と流していた。




 嗚呼……嗚呼!! 祝福あれ!!!!!!







 ☆






「コメント欄こわ」


「そんなに? ……うわ」

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