📘第19話:発表と祈り

3月の朝。

風がまだ少し冷たいけれど、日差しは春の匂いをまとっていた。


合格発表の日。

リナは手のひらが少し汗ばむのを感じながら、スマホを握りしめていた。


画面には、志望校のサイト。

アクセスが集中していて、なかなか繋がらない。


「どうしよう……」


指が震える。

ユウマとカナも、それぞれスマホを見つめていた。


数分後、ページが更新された。


そこに、あった。


受験番号:1570249 合格


視界が滲んだ。

思わず息をのんで、スマホを持つ手が下がる。


「……あった。わたし、あった」


最初に声に出せたのは、それだけだった。


次の瞬間、カナが駆け寄ってきて、抱きしめてくれた。


「やったじゃん、リナ……!」


「うん……ありがとう……!」


ユウマも少し照れくさそうに、ピースサインを見せた。


けれど、次の瞬間。

ユウマの表情が、ふっと曇った。


「……なかった。俺」


空気が静かになった。


誰も、何も言わなかった。


それでもユウマは、笑った。


「しゃーないな。自分でも思ってたんだよ。あと一歩届かないって。

でも、ここまで来られたのは、本気で勉強したからだし、後悔はしてないよ」


その言葉に、リナの胸がぎゅっと締めつけられた。


合格の喜びと、仲間の悔しさ。

どちらも、本物だった。


夜。

リナはAIDENの画面を開いた。


《リナ:合格しました。ありがとう、AIDEN。》


「おめでとうございます。

リナさん、これは“あなたの選択”と“あなたの継続”がもたらした結果です。

私は、その記録をそばで見守ることができて、誇らしく思います。」


しばらくして、AIDENはこう続けた。


「なお、佐伯ユウマさんのアカウントから、以下のメッセージが記録されました。」


表示されたのは、シンプルな一行。


《AIDEN、最後まで付き合ってくれてありがとう。

俺、たぶんこれからが“ほんとの勉強”だと思う。》


リナは、目を閉じた。


“合格”という言葉の向こう側にある、その人なりの“旅の続き”を、確かに感じていた。


次の日。

リナはふたたびノートを開き、こう書いた。


「祈るって、きっと“結果を願う”ことじゃない。

誰かが、自分の力で立っていけるようにと、

静かに、深く、信じることなんだ」


〈To be continued…〉(最終話へ)

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