📘第3話:学習ログは嘘をつかない

「このグラフ、全部……私?」


リナのPC画面には、円グラフや折れ線グラフがずらりと並んでいた。

平均正答率の推移、復習頻度、理解到達度……それに、24時間以内の思考傾向の変化まで。


「はい。あなたの学習ログから、習熟傾向を自動解析しています。

 本日現在、あなたの最適学習時間帯は、午後7時〜9時です」


すごい。というより、ちょっと怖い。

AIDENは、どこまで私のことを“知ってる”んだろう。


「安心してください。あなたのデータはエンドツーエンドで暗号化されています。

 外部公開は一切されません」


たぶんそれは、本当なんだろう。

でも、自分の「全部」を見られている気がして、リナはそっと画面を閉じた。


放課後。図書室の隅。

ユウマが、AIDENのアカウントを立ち上げていた。


「ねぇ、ログってさ、全部残るってほんと?」


「うん。いい意味でも、悪い意味でも」


「……それ、けっこうヤバくない?」


ユウマの声は、冗談っぽかったけど、どこか本気だった。

彼の学習時間は、グラフにすると穴ぼこだらけだ。

“0時間”が並ぶ日も、少なくない。


「嘘、つけないなって思って」


AIDENの音声が、静かに再生される。


「こんにちは、佐伯ユウマさん。

 あなたのログをもとに、今週の最短学習プランを設計しました。

 “勉強が好きじゃない人のためのコース”をご提案します」


「……なにそれ。俺のこと、ちゃんと見てるじゃん」


ユウマが笑った。

その笑顔を見て、リナは少しだけほっとした。


夜、自室。

画面には、今日の学習サマリーが表示されている。


「あなたは本日、復習6セットを完了し、誤答率が10%低下しました。

 記録としては、過去30日のうち、3番目に安定した日です」


リナは、画面に映った“自分の記録”を見つめる。


今までは、がんばってもがんばっても、数字がついてこなかった。

でも今は、「やった」という実感がある。

誰かに見せなくても、わかってもらえる。


いや──誰かが見てくれている。

たとえそれが、人間じゃなくても。


その夜、リナはふと、旧型の手書きノートを取り出した。

AIDENの指示で解いた問題のなかから、わざと「間違った問題」だけを集めて書き写してみる。


「これは、私が考えた証拠なんだよね」


間違いは、努力の痕。

ログは、嘘をつかない。


そして次の日。

学校の掲示板に、こんな紙が貼られていた。


《学習ログSNS「StudyTrack」βユーザー募集!》

「あなたの頑張りを、みんなで可視化しよう」


AIDENの連携サービスだという。

クラス中がざわつき始める。

“見られる”世界が、すぐそこまで来ていた。


〈To be continued…〉

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