第24話 共闘

「何か情報は掴めたかい?」


 バリトーの元に向かうと、テレサと二人でお茶を楽しんでいた。高級な茶器に淹れられた花茶の芳醇な香りが漂っている。


「はい。私たちが見た書類とは大きく異なる点が、いくつか」


「僕たちは関わった以上、この不正を見過ごせません。この事実を侯爵様に直訴すべきです」


 フィンの強い言葉を聞いてテレサはカップを置き、ゆっくりと顔を上げた。


「侯爵様にお会いするには、紹介状が必要ですよ」


 暖かく茶目っ気たっぷりに接してくれていたテレサの声は、今までの印象とは違い冷たく感じられた。

 他領のことに首を突っ込むなと言うことなのだろうが、知った以上はこの町が置かれた状況を放っておくことはできない。


「存じております。この地を治める伯爵様にご相談できないのであれば、教会でも何でも、後ろ盾を探して推薦状を書いていただきます」


 二人の強くまっすぐな視線を受け、テレサが口を開く。


「では、理解しているのか、教えてくださる?」


 テレサの提案で二人は本題について説明をはじめる。

 ミシャーナは帳簿の矛盾点や使途不明金について丁寧に説明した。


「それから」


 ミシャーナは全ての書類の矛盾点を話したあと、一息ついてテレサを見た。


「テレサさん――いえ、テレシア・ガイナ・ド・ダルトワ様。あなたが政務官だったのですね」


 ミシャーナの言葉にフィンも続く。


「そして、ガイナ――大地の妖精の血を引いている」


 二人の話に耳を傾けていたバリトーは驚きで瞬きもせず、テレサはにこやかに笑って手を叩いた。


「ふふふっ、お見事ね。そう、私がこの館の主のダルトワ子爵よ。領主の元・政務官。良く辿り着いたわね、流石だわ」


 テレサは笑いながら続けた。


「妖精は私のお祖母ばぁさまで、私は妖精の血を受け継いでいるだけ。大した能力もなくて人間ヒトとあまり変わらないわ。ただ、少しだけ年を取るのが遅いくらいね」


 テレサは、いたずらな笑みを讃えながらウインクをした。


「実は使役精霊を使って少し情報を探らせていただいたの。ミシャーナさん、あなたセリシエ伯爵令嬢ですね?」


「はい。仰るとおりです」


 ミシャーナが答えると、驚いたバリトーがいきなり立ち上がり、胸に手を当て頭を下げる。


「礼を欠いておりました、セリシエ伯爵令嬢。わたくしはバリトロス・アルク・ド・ダルトワです。わたくしは入婿で畑を耕す以外は何もしておりませんが、妻が子爵で政務を取り締まっております」


 焦ったのか言わなくて良いことまで話している。不器用な自己紹介に、テレサが思わず噴き出した。


「あなた、そこまで言わなくてもいいのですよ。もう、いくつになっても可愛らしい人」


「すまない、あんまりこういう場は慣れなくてな」


 バリトーは照れたように頭をかきながら、テレサに促されてソファーに再び腰を下ろした。


「いえ、私こそ失礼を致しました。子爵様とは知らず、ご無礼の数々をお許しください。私はミシャーナ・ロゼリア・ド・セリシエ。伯爵家の出ではありますが、今は地位を捨てミサと名乗っております」


 ミシャーナはそう言うと、バリトーとテレサの前で完璧なカーテシーを見せた。併せてフィンも美しいボウ・アンド・スクレープをし、簡単な挨拶をする。


「私はフィン・シルフ・エアリアル。風の妖精です」


 二人の様子を見たテレサは、口に手を当てて満足そうに笑みを浮かべた。


「私、こんなに完璧なご挨拶を見たのは久しぶりだわ。あなた、私はますますミサさんのことが気に入りました。フィンさんも、妖精というのに人の挨拶をここまで見事にはできませんよ」


 興奮して早口になり、バリトーの腕をバシバシと叩いている。


「そこまで気に入ったんなら、二人に紹介状を書いてやればどうだ」


 バリトーは、テレサの興奮に付いていけないと言った様子で、困った顔をしながらも二人のために提案をした。


「そうね、少し待ってくださる?」


 テレサはペンを取ると、証明書となる魔法がかけられた紙を取り出し、サインを書いた。用意されていたところを見ると、はじめから紹介状を書いてくれるつもりだったのだろう。


「さあ、これで私たちも革命の共犯よ。一緒に闘う覚悟はあるわ」


 テレサは紹介状をミシャーナに託し、また満足げに笑ってウインクをした。


「まず、私の見解から述べるわね。前の領主は生きているわ。けれど、私は大地を豊穣させる程度しかない。この能力では探しきれなかったの」


 悲しそうに告げるテレサの肩をバリトーが優しく抱き寄せる。


「しかたない、こればかりは誰にも無理だ。テレサはこう言ってずーっと自分を責めとる」


 バリトーがテレサを気遣う様子を見て、フィンが口を開く。


「実は、この町に入ってから違和感を覚える場所があるんだ。僕が調査しよう」


「その間に私が領主の館に侵入して、不正の書類を手に入れるわ」


 二人は今すぐにでも飛び出す勢いだったが、テレサが呼び止める。


「待ちなさい。ミシャーナさん、潜入のお手伝いは私がするわ」

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