視線の裏側 ――AIと僕らのチカラ比べ

Algo Lighter アルゴライター

📘 プロローグ

午前2時10分。

窓の外は雨。東京の片隅、机の上にノートと眠気と後悔が並んでいた。


「また、間違えた……」


瀬川レンは、ため息をついて鉛筆を置く。

解いたはずの数学の問題は、見事に0点だった。

模試まで、あと9日。志望校は、東京の国立医学部。


だけど、偏差値は足りていない。

いくらやっても、点が伸びない。


「努力じゃ、追いつけないんだよ……もう、限界なんだ」


レンはスマホを握りしめ、暗い部屋で“あの掲示板”を開く。


──「【Shadow】使って偏差値20UPした。マジで神」

──「AIに解かせろ。人間でやる意味あるか?」

──「本番も対応済み。瞬き1回で即回答。無敵」


小さな投稿の文字列が、彼の心に火を灯す。


ゆっくりと、机の引き出しから取り出したのは、フレームのない“眼鏡”。

外見は普通。でも、内部には小型カメラと骨伝導スピーカーが仕込まれていた。


レンはそれをかけて、鏡の前に立った。


「……これが、俺の逆転の一手だ」


その瞬間、天井の蛍光灯がチカッと瞬き、レンの影が壁に揺れた。


その頃、別の場所では一人の教師が、無人の教室でログを見つめていた。


情報科教諭・天野咲。彼女のPC画面には、模試中の生徒の**「視線ログ」**が浮かび上がっていた。


一人の生徒だけ、妙な挙動を見せていた。

「平均注視時間:1.5秒」

「問題12 注視→逸らし→再注視:0.23秒」

「瞬きのタイミング:設問切替と一致」


咲はゆっくりと画面を閉じた。


「……これは、誰かがAIを使っている」


静まり返った教室の中で、彼女の瞳が凛と光る。


これは、人間とAIが、真正面からぶつかる時代の物語。


テクノロジーが問いかけるのは、「ズル」か「進化」か。

そして選ぶのは、正解でも教師でもなく──自分の良心。


――「君は、誰の目を信じる?」


受験という名の戦場で、レンと咲の“チカラ比べ”が、今始まる。

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