第19話 夜を越えて

  写真フォルダの中にある写真をスライドする。

 スマホ内に納めた写真の多くは私と母の姿を映したものが多い。

 栗色のショートカットに眼鏡姿の母は歳を感じさせない魅力があって、くしゃっと笑った表情は女の私から見ても美人だな、と思った。

 中学時代。高校時代。そして、今。いつも私を見ていてくれて、私を守っていてくれる。私にとって母は恩人であり、世界で一番大切な人だ。だから今度は私が恩返しをしたかった。

 この仕事を始める話をした際は母と大喧嘩した。私は思ったことを口に出してしまう性格だし、母も私と同じく感情が熱くなりやすい性格だ。

 火と火。合わせて炎。そりゃもう、互いに感情をぶつけあった。

 ――――好きにしなさい。でも後悔はしないように。

 その言葉を母から捻り出し、私と母の大喧嘩は終戦を迎えたのだ。

 私もこの仕事の危険性は分かっていた。店長にスカウトされて、最初に厳しく釘を刺されたからだ。

 この仕事は確かに稼げる。だが金が稼げるということには理由がある。その理由を何にするかはお前自身が決めること、と店長は言っていた。

 そして、それは入店当日に思い知った。

 ――――今日、ホテル行ける? 

 男性と付き合ったことがない私は衝撃を受けた。初対面で、第一声でそう言われたのだ。

 禁止事項にしているお触り。お酒の強要は当たり前。こちらを酔い潰そうとする欲と感情が目で分かるようになってきた。

 勿論、全ての男性がそうじゃないことは分かっている。でも、これは真理だ。男の性欲は信用しちゃいけない。

 ただ幸か不幸か、私は母の娘で、お酒は強い方だった。だから今まで酔い潰されたことはなかった。

「・・・・・・ただ今日は応えたなぁ」

 ぼそり、と呟いて起き上がる。

 ベットの上で背伸びをして、時間を確認する。時刻は一八時。昨夜のお酒はまだ抜けきっていない感じがする。シャツを脱ぎ、下着を外す。全裸になり、浴室へ。

 頭から熱いシャワーを浴び、体が熱を帯びていく。そして、あの人の声を思い出す。

「手、出されると覚悟したけど、出してこなかったな」

 昨夜は酔っていた。むしゃくしゃしていた。もし、手を出されていたら、そのまま流されていたかもしれない危うさを私は感じていた。

 だからこそ、だ。不思議な人だと思う。私が男性ならばあの状況で手は出してしまうかもしれない。

 未だに転生している話は信じ切れていないけど、どこか達観した雰囲気を感じる。私とも年齢は十も離れていないはずなのに。

「・・・・・・もう少し頼ってもいいのかな」

 キュッ、としっかりお湯を止めて前髪から落ちる雫を眺める。

 また今日が始まる。気持ちはまだ吹っ切れてないけど、大丈夫だ。心は死んでいない。

「よし! がんばろ!」

 パン、と頬を叩き、私は出勤準備を始める。

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